第三文明社の子育て支援誌『灯台』9月号で
進路・進学決定のための特集を行っています。
私はその総論に当たるインタビューを受け、それが掲載されています。
以下がその内容です。
【タイトル】
仕事の話を聞かせて、
子どもの?問題意識?を育もう
鶏鳴学園学園長 中井浩一
取材・文/長野修
【リード】
有名大学に行けば一生安泰という時代は、終わった。これからの時代は、自分のテーマ、問題意識をしっかりと持った自立した個が、人生を切り開く。そのための鍵とは何か?
【本文】
●親からの自立が最優先
進学・進路の決断を行なうためには、「自己理解」が不可欠です。つまり、自分の関心があることから人生のテーマを見つけ、問題意識を明確に持てば、進路進学は自ずと決まります。
しかし、今の子どもたちにとって、これは非常に難しいのが現実で、それ以前の問題としてまず考えるべきは、親からの自立です。
今問題になっているニートやフリーターは、少子化・核家族化が進む中で、親との一体感を非常に強く持ったまま育っているので、自立心が希薄です。そうすると、自分は何をしたいのか、自分の人生のテーマは何なのか、そういう問題意識を持つことができません。結果として自分の道を選び取ることができないのです。
●中高は、問題意識を育てるスタートライン
昔は「大学に入ってから何をすべきか考えればいい。今は受験勉強だけをしろ」と言われたものです。これは、大企業に就職すれば生涯安心という終身雇用の時代には通用しましたが、終身雇用が崩壊し、離職率も高まっている現代にあっては、当てはまりません。今は、どんな局面でも自分で道を見つけ出し、乗り越えるための力が必要なのです。それを可能にするのが、問題意識なのです。
従って、中学、高校時代は、自分のテーマ(問題意識)を見つけるためのスタートラインに立つ時期だと考えましょう。二十代である程度明確にし、三十代でそれを完成させる。ずいぶん遅いと思うかもしれませんが、今の社会では、このくらいの長い期間が必要です。
●親は自分の仕事の苦労を語れ
問題意識を育てるために必要なことは、子どもに社会の現実をリアルに感じさせることです。具体的にはどうするか? 親が自分の仕事を語ることです。
仕事の楽しさはもちろん、仕事の苦労や悩み、職場の課題、その背後にある社会の問題点などを、生々しく語るのです。そこで初めて子どもは、仕事をするということ、生きるということがどういうものなのかをリアルに感じ始めるのです。
また、親の話を聞くことで、子どもは「親のようになりたい」とか「なりたくない」という生き方のモデルを持つこともできます。そこから問題意識が生まれ、自立心が芽生えます。親が自身のことを語ることが最初の一歩なのです。
●対象理解を通じて自己理解を進める
進学進路の決断には自己理解が不可欠だという話をしましたが、これには時間がかかります。自己理解が不十分な場合は、「対象理解」に力を注ぐことも重要です。
例えば、社会に関心を向けたり、職業や大学について情報を集め、調べます。社会という外側の世界を理解することを通じて、自分が何に関心を持てるか、持っているかを調べるわけです。つまり、対象理解を媒介として自己理解を進めるのです。
対象理解を進めるためには、情報収集と現場を知ることが重要です。情報に関しては、インターネットや書籍などで十分収集できますが、それだけではなく、大学の勉強や職業について、実際に人に会って話を聞くことが大切です。
●大学は、興味関心で選ぼう
大学選びは、仕事と結び付ける必要はありません。大学は職業訓練校ではなく、自立するための問題意識やテーマ探しが目的なのですから。例えば、法学部だけが弁護士になる道ではありません。工学部を出てロースクールで学べば特許関係に強い弁護士になれるし、医学部で学べば医療事故を専門とする弁護士にもなれます。要は、自分の興味関心があるものを学ぶのです。仕事を決めなくても、問題意識さえ持てればやりたい仕事が見えてきます。
これからの時代に必要なのは、学歴ではなく、人間としての強さです。強さがあればどんな困難も乗り越えられます。その強さは、その人自身が培ってきた、テーマ=問題意識が土台となるのです。
【プロフィール】
なかい・こういち 1954年東京生まれ。京都大学卒業後、大手予備校講師などを経て、現在国語専門塾「鶏鳴学園」塾長。国語教育、作文教育の研究を続ける傍ら、教育改革についての活動も行なう。著書には『高校が生まれ変わる』(中央公論新社)、『「勝ち組」大学ランキング』、『大学入試の戦後史』、『大学「法人化」以後』(以上、中公新書ラクレ)等がある。