9月 16

『コミュニティビジネス入門』から学ぶ 
 (1)「コミュニティビジネス」と「地域の自立」
 (2)「社会資本」というモデル
 (3)「社会資本」「地域資源」とは何か ?産業構造の組み換えや統合?
 (4)「地域」とは何か。 ?地域外部の人間の必要性?

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(1)「コミュニティビジネス」と「地域の自立」

 『コミュニティビジネス入門 地域市民の社会的事業』
 (風見正三・山口浩平 学芸出版社)。

 これは現在世間でも注目され始めている、「コミュニティビジネス」
「ソーシャルビジネス」の入門書だ。大学などの教科書としても
使用できるように作られている。事例が豊富で、一応の理論化もあり、
用語集もついているので、考えるキッカケには相応しいと考えた。
著者たちに純粋な研究者はいない。みなが現場の人間か、
現場経験者から研究者に転じた人ばかりだ。

 笹本さんたちは、山梨でワイン農家や醸造家などの活性化のために、
「ワインツーリズム」を企画し、成功した。その意味を、その本質を考え、
こうした方法や考え方を、山梨県全体に、さらには日本全体にも
広げていくことが、今後の課題だ。
それが「地域再生」「地域の自立」を進めると考えるからだ。
そのためには、まずワインツーリズムの意味、意義を
しっかり考えておかなければならない。そのための課題や論点を
はっきりさせるために、このテキストを読んだ。ここから、
今後の政策立案に向けた取り組み方、公開学習会の進め方も見えてくるだろう。

(2)「社会資本」というモデル

 結論からいえば、このテキストを選んだのは正解だった。
ここには地域再生のための1つのモデルが、
極めて有効なモデルが示されていたからだ。

 そのモデルは「社会資本」という考えを中心とする3点からなる。

 【1】地域の社会的資本(地域資源)を、
 【2】その所有者である地域自身が主体となり、
 【3】それによって、地域資源が「持続可能」なように経営(管理運営)すること。

 これは社会資本が循環するモデルで、わかりやすく明確な
イメージが持てる理念だと思う。地域重視については、
「地産地消」「スローフード」「マルシュ」「第6次産業」などと
さまざまなことが言われる。しかし、そうしたもろもろは
すべて副次的なもので、核心にあるのはこの3点だと思う。
そして、他は大切なものでも、この全体の中に位置づけられるべきだろう。

 このモデルによって、ワインツーリズムやコミュニティビジネスの
課題を整理し、その全体像や分類などをすることができるのではないか。

 しかし、このモデルは、方向性は明確だが、問題への
回答そのものではないだろう。あくまでも論点を明確にするしかけである。
まだまだ曖昧な点が多く、矛盾もあるように思う。
ただし、それは本書の問題と言うよりも、まだこれらの概念が
生まれたばかりで、混沌としている段階だからしかたない面もあるだろう。

 したがって、このモデルの曖昧さを、自分たちの実践で
はっきりとさせていくべきなのだ。
以下は、本書をヒントにした私見であることを断わっておく。

(3)「社会資本」「地域資源」とは何か ?産業構造の組み換えや統合?

 「社会資本」「地域資源」とは何か。
その地域の自然と社会のすべて、物質面と精神面のすべてが含まれる。
このように本書では言われる。
その中心は産業そのものと、人間の社会関係であると思う。

 地域資源を改めて見直していくことは、産業構造の組み換えや
統合をもたらし、人間関係を作りかえる可能性がある。

 従来の「産業」構造は、1次 → 2次 → 3次 → 4次(情報産業)と
発展してきたが、それは常に前の時代の産業を否定することでの発展であった。
例えば、高度成長期に2次産業と、それを支える3次産業(サービス業)が
急速に伸び、家電製品が家庭に氾濫するようになった。
しかし、それは各地の農村から労働力をひきはがして
過疎化を進めることで成立している。このような否定の仕方もあるし、
他方で共存共栄の止揚のありかたも、本来は可能なはずだ。
しかし、従来は単なる否定が多かった。したがって、産業間の利害関係も
人間相互の対立も根深いものがある。工業化における
資本家と労働者の対立も大きかった。今は、2次、3次産業の
実物経済を否定するような形のマネー資本主義(貨幣そのものを商品とする、
4次の究極の姿)へと進んでいる。
実物経済はマネー資本主義の道具になり下がった。

 実物経済を否定した今の社会は、発展のどん詰まり、
否定の行きついた果てだ。これから先の発展とは何なのだろうか。
これを止揚するとはどういうことなのだろうか。

 それは、今や手段にすぎなくなった、1次に始まった実物経済を、
単なる否定ではなく、価値ある止揚へとするようなあり方だろう。
それまでの各段階が、4次の中で、契機としてそれぞれが有効に機能しているか。

 つまり、再度、1次、2次や3次産業の実物経済、その再編統合によって、
全体を発展させる以外にはないはずだ。それを考える役割が
4次(思考)や3次のサービス業にある。
これが産業構造の組み換えや統合をもたらし、人間関係を作りかえるのだ。

 例えばワインでは、2次のワイナリーは1次の農業(ブドウ農家)と
相互依存しているが、対立関係もある。1次産業はすべてのベースだが、
従来の固定した関係性をそのままにしていて、地域の再生は不可能だ。

 そこでワインツーリズムの登場だ。都会の消費者が、
ワイナリーをまわってワインを楽しみながら、そのワイナリー周辺地域を
散策する。そこに展開されるのは1次産業のぶどう農園であり、
さらには歴史的文化的な観光資源や、地域の産物の店が出店されている。

 つまり、これを企画運営した、笹本さんたちソフトツーリズム(株)や
従来からあった「朝市会」(以上が3次)を中心に、2次のワイナリーが参加し、
さらに1次の農園を取り入れ、そこに地域の自然や歴史財をも取り入れていく。
このことで、従来の産業間の関係や、人間関係が変わってくる。
これが「地域コミュニティの再構築」だと思う。

 この「地域コミュニティの再構築」はもちろん重要だが、
これを本書は次のように説明する。

 これまでは、行政(公)、企業(民)、市民(市民中心のNPO)の
3分類が普通で、相互に対立するか無関心であることが多かった。
しかし、そのすべてがここでは資源に含まれる。
そこに従来の公私を越える、「新たな公共」
(=行政ではなく多様なステイクホルダー)を見ようとする。
複数のセクターが関わるので、それは「協働型社会」になる。
行政主導ではないし、補助金依存でもない。

 しかし、こうした説明では、肝心な産業構造の変化を見られず、
従来の産業間の対立や協同の具体的変化も見えてこない。

(4)「地域」とは何か。 ?地域外部の人間の必要性?

 さて、私のように考えるとき、「地域」とは何か。
それは地図上の地域、その住民だけをさすような閉じた意味の
「地域」ではない。本書でも地域コミュニティとテーマコミュニティ、
地域内と地域外の連携の必要性を強調する。
外部の人間の積極的な関わりこそが必要だからだ。

 本来は、地域資源こそ、その地域の「誇り」であるべきだ。
笹本さんが、自らの地域再生のための運動名を「KOFU Pride」と
名付けたことには、正しい方向性があったことがわかる。

 しかし、その地域の住民が、その資源の資源である価値に
気付いていない場合が多い。例えば、山梨の人間は、
実はワインをあまり飲まない。山梨のフランス料理店、
イタリア料理店においてあるワインは、山梨産ではないことが多い。
ここに「地方」の問題があり、中央指向や「他者本位」の問題がある。
地域資源を評価できるのは、むしろ、東京に出た後に
Uターンした人間であることが多い。

 だから、地域をその地域内の人たちに限定してはならないのだ。
地域を開き、地域外との連携が必要なのだ。ワインツーリズムの場合も、
企画運営にあったのは、そうした人たちだ。会代表の笹本さんも
副代表の大木貴之さん(甲府市内の小カフェーのオーナー)も
山梨出身だがUターン組だし、ワインツーリズムを行った勝沼の住民でもない。
ワイナリーの土屋幸三さん(機山洋酒工業社長)も、家業の跡取り息子だったが、
阪大で学び、企業や国の研究所で働いた上で実家の家業を継いだ。
ワイナリーだが、場所は塩山であり、勝沼のワイナリーにとっては外部者である。

 それにしても、地域の人々自身の地域資源への関心の弱さには、
地方の屈折した思いがある。長く、地方は中央の文化を輸入してきた。
それが劣等感にもなっている。しかし、これからの時代は、
旧来の「中央の高い文化を、文化的に低い地方にもたらす」方向ではダメだろう。
その逆に、地方から中央に新たな価値を発信するものであるべきだろう。
そうでなければ、地域のプライドにはならないだろう。

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