12月 19

4月から言語学の学習会を始めました。その報告と成果の一部をまとめました。
1.言語学の連続学習会 
2.日本語研究の問題点 
と掲載してきましたが

3.関口人間学の成立とハイデガー哲学
は、以下の順で4回で掲載します。

(1)関口の問題意識と「先生」
(2)関口の自己本位の由来
(3)ダイナミックな思考法 (すべては運動と矛盾からなる)
(4)ヘーゲルとハイデガー (世界と人間の意識と言語世界)

=====================================

◇◆ 関口人間学の成立とハイデガー哲学 ◆◇  

 関口存男にあっては、先に挙げた日本語研究の3つの問題が見事にクリアーされている。第1に、関口ほど、自らの生活実感とその学問が一体になった人はいないだろう。また、その視野は身近な日常生活から森羅万象にまで届いているように見える。そして彼は一般大衆に直接語りかける「べらんめえ」の文体で自らの言語学を述べる。
 第2に、彼ほど西欧への「奴隷根性」から自由な人を知らない。彼ほどに「自己本位」な人を知らない。
 第3に、彼は、ハイデガー哲学を自分の物にし、西欧の認識論や哲学に精通している。彼はドイツ語や西欧語を学びながら、人間一般の本質に迫っている。その中に自ら自身の母語である日本語とは何か、日本人とは何かは、その背景として含まれている。

(1)関口の問題意識と「先生」

 こうしたことが、なぜ関口には可能だったのか。まだ『冠詞論』全3巻中の『不定冠詞論』しかを読み終えていない段階ながら、一応の仮説を出しておきたい。

 第1に、関口のテーマ、問題意識の独自性のゆえであり、第2に、テーマを深めていく上で「先生を選べ」を実行したことがあげられる。この2つは切り離せない。

 関口の言語学上のテーマとは、自分の「語感」が感じた物の正体を明らかにすることだった。それは言語の「含み」の存在とその含みの意味を明らかにすることに他ならない。
この「語感」や「含み」とは、自分が感じる物であり、形式文法のように外形上では根拠を出すのがムズカシイ。そもそもそれが「含み」だからだ。この「含み」や「語感」とは、自分の中に食い入っているもののことで、それは自分の存在そのものと言って良い。それをテーマにするということは、最初から、自分の実感を信じて、それを根拠に考えると言うことだ。それには自己理解の深さが必要であり、強い主体性が求められる。こうしたテーマを持ったことが関口の関口たるところだ。
 こうしたテーマを持って、西欧文法や西欧の言語学を読めば、そこにあるのが「形式文法」でしかなく、関口のテーマに答えてくれないことはすぐにわかる。その答えの是非をどうこう言う以前に、問題にしていることがまるで違う。関口が求める回答はどこにもない。それどころか、参考にできるものすら存在しない。(もちろん、西欧だけではなく、当時の日本にも存在しない)。

 その時に、関口はハイデガー哲学に出会ったのだと思う。その哲学だけが、関口の関心の方向に根拠を与える物だった。関口の意味形態論は、ハイデガー哲学なしにはありえない。ハイデガー哲学によって、確立されたのだと思う。これを説明しよう。
 関口は、言語活動を3要素、つまり「意味(事実)」と、話し手・書き手が「意味(事実)をどう考えたか」と、その「言語表現」とに分けた上で、「意味」と「意味をどう考えたか」には直接の関係はなく、「意味(事実)どう考えたか」と「言語表現」こそが関係し、一体であることを示した。これが彼の意味形態論の大前提だ。(この3者の関係が「媒介関係」であることは、明らかですね)
「意味」と「意味をどう考えたか」に直接の関係がない以上、「意味」は「意識に反映された限りで」問題にすれば良いことになる。これがハイデガー哲学の立場であり、この立場の上に、関口は含みの研究に安心して没頭することができたのである。
 関口にとっての生来のテーマである「語感」や「含み」とは、「言語表現」の中に現れた(または潜在的で隠されたままの)「意味をどう考えたか」のことなのだ。そして、関口は「言語表現」の中の「含み」を明らかにすることに全力を注ぐ。こうして「含み」の研究を中心とする意味形態論、つまり関口ドイツ語学が成立した。

 そして、関口は彼のドイツ語学の中で、自らの前提としたハイデガー哲学をさらに具体化し、発展させているのではないか。
 関口の仕事のすべてがその具体例になると思うが、例えば『不定冠詞』の第10章「不定冠詞の仮構性の含み」で「未来に関する仮構」を取り上げている。そこでは「人間は未来一辺倒の存在物」という人間の本質を明らかにし、ハイデガーが問題提起した「企画」の含みを徹底的に展開して見せている。この「企画」とは関口の訳語だが、一般には「投企」として知られた用語であり、サルトルの『実存主義とは何か』で一躍有名になった。

Leave a Reply