迎春
昨年12月29日には、ゼミ生と1年の振り返りをしました。
それを踏まえながら、
昨年2011年の、私個人と、大学生・社会人ゼミについてまとめました。
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◇◆ 2011年の振り返り ◆◇
? 中井個人について
(1)哲学
昨年は、ヘーゲルの大論理学の概念論冒頭の「普遍、特殊、個別論」に取り組みました。この範囲の訳注である牧野紀之氏の『概念論 第1分冊』を参照しました。
「特殊」論はかなり理解できたと思います。できたどころか、ヘーゲルの叙述の不十分な点、展開できないで終わっている個所がよく見えました。一方、「個別」論は全体にあいまいで、わからない印象で終わりました。
この原因を考えると、もちろん私の能力不足が挙げられるでしょう。しかし、ヘーゲルの側の問題も大きいと思います。ヘーゲル自身というよりも、ヘーゲルの時代の限界です。まだ近代が、民主主義が、資本主義が始まったばかりの段階で、ヘーゲルはこの世界を考えざるをえなかったという限界です。
今こそ民主主義の時代、平等の時代です。それがゆきすぎてポピュリズムが心配されているほどです。そして、「個性」「個性」と猫も杓子もわめきたて、他者との違いを売り込もうとしています。つまり、今こそ、特殊の時代なのです。
ヘーゲルが必死で実現をめざした「人格の平等」は、今では大前提で、みながそれを疑うこともなく、それぞれの「個性」を競おうとしています。もちろん、その「個性」は非常に怪しげで、もろくはかないもので、本来の理解からは程遠いと思います。
ヘーゲルには、こんな馬鹿げた大騒ぎになるとは想像もできなかったことでしょう。そのために、彼の特殊論は、具体的でなく、不十分で終わっていると思います。しかし、「個別」とは、特殊を止揚した段階です。その段階に至るには、特殊を十分に展開しつくし、その矛盾を徹底的に暴露する必要があり、その結果として「個別」の段階が明らかになるはずです。
「特殊」論が不十分なヘーゲルに、「個別」論が具体的に展開できるはずはありません。そのため、彼の「個別」論も不明な個所が多かったのだと思います。
しかし、こうした不満をヘーゲルに向かって投げつけてもしょうがありません。それは私の役割です。この「特殊」の時代の矛盾を徹底的に展開するのが私の使命だと思いました。
ヘーゲルでは、他にも『精神現象学』の第5章「理性論」を牧野紀之訳(未知谷版)で通読しました。
(2)関口ドイツ語学と日本語学
1.1昨年の「不定冠詞」論に続いて、昨年は「定冠詞論」を半分ほど読みました。
2.さらに、日本語学の山田孝雄氏、野村剛史氏の論考を読んだのが、大きいです。判断を根底において、考えている点で、ヘーゲルと両者は一致していて驚きました。さらに名詞を、言語の根源的な矛盾としてとらえ、助詞や冠詞はその矛盾から生まれていると理解している点で、関口氏と野村氏は一致しています。
3.今年は関口の「定冠詞論」と「無冠詞」を読み終え、関口ドイツ語学についてまとめるつもりです。関口氏は、世界レベルであるだけではなく、それを超えた言語学者だと思います。
(3)著述
3・11後、東北の被災地の取材をしました。7月、9月、10月、12月と、それぞれ1週間から2週間の滞在をしました。
震災後の国立大学を取材し、東北地域の抱える経済、政治、医療、文化の問題を考えることができました。
この一部は来年1月の『中央公論』2月号で掲載後、6月に新書ラクレで刊行の予定。
他にも、福島県の原発地域の高校を取り上げて、原発地域と教育の関係を書く予定です。
(4)国語教育
1.大修館の教科書の補助教材を作りました。
2.「聞き書き」の本を刊行するために、その準備で大修館のPR誌『国語教室』秋号の「聞き書き」特集の企画とインタビューや対談などをしました。今年は、「聞き書き」本の刊行を目指します。
3.来年は、論トレをビジネス書として刊行する計画もあります。
? 大学生・社会人のゼミ
昨年は、江口朋子さんと守谷航君がゼミを「修了」しました。これは2人を社会人として1人前(以上)であると認めたことを意味します。これは約6年前に始めたゼミと師弟契約の関係者として初めてのことです。やっとここまで来ることができました。
守谷君の「修了」では、彼が「辞める」形になったために多少の動揺がありました。しかし、今はゼミが、もう1つ上の段階に発展する可能性が生まれてきていると思います。
1つは、「ゼミの原則」をまとめることができたことです。もう1つは、ゼミの立場の問題が浮上し、それを自覚的に追及することになったことです。
実際に、ゼミ生の自主ゼミが11月から始まり、仲間同士の研鑽が深まろうとしています。私は、ゼミ生が必死で自分の殻を破ろうとする姿を見て、「負けられない」と奮起するようになっています。ありがたいことです。
読者のみなさんも、関心があれば、一度見学に来てください。
ゼミの読書会では、秋から「東日本大震災で提起された問題」をテーマにしています。この震災と原発事故への対応の中で、日本社会の抱えていた諸問題が表に吹き出し、誰の目にも見えるようになってきたこと。これが、今回の大きな不幸の中の、唯一の(と言ってよいと思います)成果です。
それを真剣に学ばなければならないと思っています。
読書会では、これまで
10月
海堂 尊 (監修)『救命─東日本大震災、医師たちの奮闘』新潮社 (2011/08)
11月
清水 修二 (著)『原発になお地域の未来を託せるか』自治体研究社
佐藤栄佐久(著)『福島原発の真実』 (平凡社新書)
12月
『石巻赤十字病院の100日間』由井りょう子 (著), 石巻赤十字病院 (著)
を読みました。このシリーズは、まだまだ続きます。