2月 20

12月の読書会の記録 『石巻赤十字病院の100日間』由井りょう子 (著), 石巻赤十字病院 (著)

 ゼミの読書会では、昨年の秋から「東日本大震災で提起された問題」
をテーマにしています。

この震災と原発事故への対応の中で、
日本社会の抱えていた諸問題が表に吹き出し、
誰の目にも見えるようになってきたこと。

これが、今回の大きな不幸の中の、
唯一の(と言ってよいと思います)成果です。
それを真剣に学ばなければならないと思っています。

 読書会では、これまで10月にも

 ◆海堂 尊 (監修)『救命─東日本大震災、医師たちの奮闘』
   新潮社 (2011/08/30)

を取り上げました。こちらは個人の医師の活動に焦点を当てたものです。

12月には

 ◆『石巻赤十字病院の100日間』由井りょう子 (著), 石巻赤十字病院 (著)
   小学館(2011/10/05)

を読みました。これは地域の拠点病院という「組織」に焦点を当てています。
この読書会の記録を掲載します。

■ 全体の目次 ■

 12月の読書会の記録   記録者 吉木政人
『石巻赤十字病院の100日間』由井りょう子(著)、石巻赤十字病院(著)

1、はじめに
2、参加者の感想
3、組織の全体を書くとはどういうことか(中井)
4、危機にこそ本質が見える(中井)
5、第1章「地震発生」の検討
  →ここまで本日 掲載
6、第2章「石巻二十二万人の瀬戸際」の検討
7、第3章「終わらない災害医療」の検討
8、記録者の感想
  →ここまで明日掲載

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◇◆ 12月の読書会の記録 吉木政人 ◆◇

『石巻赤十字病院の100日間』由井りょう子(著)、石巻赤十字病院(著)

1.はじめに

 ○日時   2011年12月22日16:00-18:00
 ○参加者  中井、社会人2名、大学生1名、就職活動生1名、高校生3名
 ○テキスト 『石巻赤十字病院の100日間』(小学館、2011/10/5) 
 ○著者   由井りょう子(著)、石巻赤十字病院(著)

  震災関連としては、10月の『救命』(海堂尊監修)と同じく、
 今回も医療現場のテキストを扱った。『救命』は医者個人についての
 内容だったが、今回は石巻赤十字病院という組織について考えた。

  宮城県の石巻赤十字病院は震災後に、石巻圏の拠点病院として、
 行政をも全てを巻き込んで災害医療にあたった。

  石巻赤十字病院の活躍において決定的だったのが、
 災害対策本部のトップとして組織全体を動かした石井正医師の存在だ。
その石井医師が石巻赤十字病院だけでなく、石巻圏全体の医療を、
 行政をも巻き込んで指揮したのである。

  中井さんは現地取材をし、この石井医師に直接インタビューを
 行っていたので、そこでの話も読書会で聞くことが出来た。

  災害時という危機にこそ、本質がハッキリと明らかになっている
 ことが分かる。本当は普段からあるのだが見えにくい本質が、
 分かりやすい形で現れるのだ。

2.参加者の感想

 ○とにかく石井医師はスゴイと思った。自分が石井医師のような
  人にどうやって対峙したら良いかと考えた。(大学生)

 ○一番面白かったのは、石巻赤十字病院が自ら災害拠点病院に
  なっていたところ。当然上からの指示で決まると思っていた。
  それも看護師だった人が自分から声をあげて始まったところが
  面白かった。また、普段はいつもボーっとしているように
  見えていた参謀の二人が、こういう緊急時に活躍したというのも
  面白かった。(社会人)

 ○黒の「トリアージ」(患者を選別し、治療の優先順位を
  つける行為。黒は救命不可能の超重症者を意味する)をつけて
  身捨ててしまうことが気になった。確かにしょうがないと
  いうのも分かるが、黒のトリアージにもっと人員を
  かけられないかなと思った。(高校生)

 ○トリアージエリア設置など、このような危険な状況にもかかわらず、
  早い対応ができたのがスゴいと思った。現場が殺気立っていたことも
  実感することが出来た。(高校生)

 ○食料で苦しんでいる人の言葉、セリフがそのまま書かれていて、
  それは一番グッと来たし、つらいなと思った。「ミルクを下さい」
  という母親に対して、病院はミルクをあげることができなかった。
  (高校生)

 ○緊急時の、災害医療の現場のことを、自分のことに引きつけて
  読むことができなかった。また、医者にしても、ボランティアに
  しても、患者にしても、当事者意識が弱くお客様意識の強い人は
  どうしようもないなと思った。(就職活動生)

3.組織の全体を書くとはどういうことか(中井)

 ○個人の視点の『救命』、組織の視点の『石巻赤十字病院の100日間』
  ・前回の『救命』はあくまでも、個人でどう動いたかという話。
  ・個人でどう動いたかよりも、まずは全体を知りたい。
   まずは全体として何が問題だったかが重要だし、そこを知りたい。
   全体を知る手掛かりとして今回のテキストがある。
   石井さんに話を聞いたのも全体を見ていた人の話が
   聞きたかったから。
 
 ○本書は組織の全体が書けていない
  ・本書はそれぞれの部署から考えた本でしかない。
   それぞれの部署で、それぞれこうだったということを
   並べても全体は見えない。部分を足せば全体になるという
   足し算の考え方。しかし、組織とはそんなものではない。

 ○組織の理念が書けていない
  ・組織の理念、目的が全てを支配する。しかし、この本では
   その理念が出せない。石巻赤十字病院の理念は何だったのか。
   今回の震災対応で貫かれた理念とは何だったのかが分からない。
   本当は最初に理念があって、その理念が全部署、全個人を支配する。
   そういう視点が無い。

 ○組織のトップが書けていない
  ・本当は中心がある。それは石井さんであり、災害対策本部。
   その頭がどう動いたかという視点がない。
  ・この病院の特別な点は、石井さんが地域の全体を
   一元管理する体制を作ったこと。行政までも含めて
   全てを巻き込んだ一元管理体制を作った。
   この点が圧倒的に素晴らしかった。こういう時に
   行政を批判しているだけなのは最低。
  ・石巻赤十字病院が著者ということになっていて、「当院」
   という表現が連続する。ここには主人公、リーダーがいては
   ならないことになっている。
   石巻赤十字病院が主人公。「みんなが主人公」という小学生の
   レベル。それは嘘だ。実際は石井さんがリーダーだったに
   決まっている。
   こういうエセ民主主義をどう思うだろうか。私は間違いだと思う。

 ○組織外からの視点がない
  ・石巻赤十字病院からの視点だけで、外部からの視点は無い。
   それでは本当の問題、矛盾は明らかにならない。この本に直接
   外部からの視点は無くても良いが、取材としては外部からの視点も
   必要。
   つまり、行政や警察や医師会、自衛隊など。
  ・こういう時、警察、特に自衛隊からの肉声は抹殺されている。
   公的な仕事の人の「顔」が見えない。唯一自衛隊に肩入れしたのは
   長渕剛くらい。どうして日本の社会はこうなのだろうか。
   自衛隊の人達の生の声、不満が外に出ない形でいいのだろうか。
   誰もやらないのなら、本当は私(中井)が自衛隊に取材しないと
   いけないのかもしれない。

 ○「感動物語」の本
  ・この本では、対立や矛盾が明らかにならない。「頑張った」
   「素晴らしい」「かなしい」といったレベルにとどまっている。
   これが普通のレベル。

4.危機にこそ、本質が見える(中井)

 ○危機にこそ、本質が見える
  ・私がなぜ震災に関心を持つかというと、こういう危機にこそ
   普段見えなかったものがハッキリと姿を現わすから。
   それが最大の面白さ。黒のトリアージの人を見捨てる話が出たが、
   実は普段見えないだけであって、普段からそういうことは
   やっている。「かわいそう」という考え方自体がダメ。
  ・そういう本当のことは何てシンプルで論理的なんだろう。
   素晴らしい。
  ・危機に現れている本質から、もう一度原則をハッキリさせて
   やっていきたい。

 ○善意やヒューマニズムの限界
  ・善意やヒューマニズムでは何も救えないことが明らかになった。
   そういうのは絵空事でしかない。それが絵空事だということが、
   危機の時にハッキリする。そこに投入できるヒト・モノ・カネは
   有限。普段は有限だということを見ないで済む。本当は普段から
   限界があるのだが、しかしこういう危機では表に現れる。
  ・石井さんが素晴らしいと思うのは、絶えずカネの問題を
   露骨に出すこと。
   「一人の医者のために何千万円かかっていると思っているんだ」
   というセリフ。それだけのカネがかかっている医者を
   いかに回して、最大効率をあげるかということをいつも考えた。
   これが本当のリアルであり、本当の理想主義だ。
   リアルがない理想主義はただの絵空事。
  ・ヒューマニズムでボランティアをやる人は、現場にとって
   迷惑になることが多い。「自己完結型」の支援でなくてはならない。
   そのためには自立していなければならない。

 ○まずは自分を救う
  ・まず何よりも真っ先に最優先に救わなきゃいけないのは、自分。
   他人ではない。自分を救えなかったら他人も救えない。
   石巻赤十字病院にとっては、まずスタッフを救うことが肝心だった。

 ○行政依存でなく、自分で全てを引き受ける
  ・行政依存はダメ。自分が全てを引き受けるしかない。石井さんは
   県のコーディネーター(震災のたった1ヶ月前に任命されていた)
   としての権限、肩書きを最大限利用した。

 ○医療の全体性
  ・医療行為というものが生活の全体につながるということが分かった。
   医療が食料から何から一切合切、全てを請け負った。それは医療が
   本来そういうものだということ。今回の震災では口内炎になって
   食べられない人が多かった。
   食べるという生きる上での根源的なところまで話が進んだが、
   それは危機にあったからこそ本質が現れたということ。

5.第1章「地震発生」の検討 
 ※各章の検討では、「→」が参加者のコメント。
  特に断りが無ければ、中井の発言である。

 ○「マニュアル」をどう考えるか
  P26、地震発生からわずか1時間で救急患者の受け入れ態勢ができた。
     トリアージエリアの設置(患者の治療優先度に応じて
     赤、黄、緑、黒に色分けしたスペースを作った)と、
     医療スタッフの人員配置ができた。
     1年がかりで実践的な災害対策マニュアルを作っていたことが
     活かされた。

   → マニュアルがあればいいというものではない。
     普通の災害対策マニュアルは全然役に立たない。しかし、
     石井医師達は1年かけて自分達で実践的なマニュアルを
     作りあげていた。
     「マニュアル」という言葉だけで考えても意味がない。
     重要なのは、マニュアルがあるかないかというレベル
     ではなく、マニュアルの実質的なナカミ。

 ○まずは自分達を守ること
  P62、看護係長佐藤京子「私たちが、家族の代わりになることは
     絶対にできません。ただ、よりそって話を聞いてあげるだけ。
     なんでもいいんです、聞いてあげることが大事なのです。ただ、
     そのためには自分を一定に保つよう心がけます」

   → よく「相手を受け入れなさい」ということが言われるが、
     実際には自分を一定に保たない限り相手の話を聞くことは
     できない。それが重要なのだ。こうした指摘はとてもリアル。  

  P74、救援物資の受け入れで事務方の職員は仮眠すらできなくなって
     しまった。そこで夜の11時から朝の6時までは受け付けない
     ことにした。

   → まずは自分達(ここでは病院スタッフ)を守らないといけない。
     自分が倒れては元も子もない。

 
 ○人が本気になった時の態度
  P70、一度来た民間の給水車が帰るのを引きとめた。
    ずっと石巻にとどまってもらい、水道局と往復させ続け、
    病院に水を送り続けさせた。

   → 医療行為そのものではないことまで自分でやらなくてはならない。
     行政がどうこうという姿勢では、ダメ。死んでしまう。

   → 就職活動生:人が本気になった時の態度、言葉は違う。

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