「自分作り」のための小論文
8月2日、東京で、小論文指導の講演をした。
第一学習社の小論文事業部主催で、東京を中心に関東圏の高校の先生方、約160人ほどが参加された。
タイトルは「「自分作り」のための小論文」。マニュアル化した、ナカミのないものではなく、少しでも、彼らの力になるような指導をしようという趣旨だ。
1時間の講演後、20人ほどの方々と座談会があり、そこではそれぞれの置かれた学校の現状や、悩みなどが率直に出され、意見交換することができた。
講演会で配ったレジュメを以下に掲載しておく。私見の概要はお分かりいただけるだろう。
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☆ 根本問題 「生きる力」を育てるための小論文指導とは何か
テキスト テキスト テキスト
マニュアル
問題意識 意見 意見
(問題意識への答え) 意見
? 新学習指導要領
(1)大きな前進
1.全教科での言語活動、2.その中心が国語科、3.体験、現場の重視
(2)現在の教育の課題、国語科の課題
1.文学と道徳教育
2.知識が現実と無関係
3.論理=思考(対立)ではなく、感性・感情(共同体の空気を読む=集団と一体)
(3)学校全体の教育の構築
1.学校の課題(生徒一人一人が、本当に必要としている力は何か)
2.全教科の連携、3年間のスケジュール、
? 今の高校生の課題は何か。
(1)根本の問題
1.将来像がなく、親からの自立が進んでいないこと
2.「自分」に自信がなく、他人に評価されないと不安
(2)その理由
1.「豊かな社会」が実現し、社会自体が目標を見失っている
2.体験の貧弱さ、現実社会の問題の見えにくさ、親子の一体化。
3.自己決定=自己責任が求められる厳しい社会になったが、
それに相応しい教育が行われていない
(3)対策
1.教育目標は「自分作り」 「自分探し」ではなく「自分作り」
「自分」が弱い、または「自分」がないのだから、それを作るしかない
「自分」とは、自分の問題関心、「問い」、テーマのことである。
2.方法 どう教育するのか
個人的な体験を掘り起こす一方で、現実社会(自然も)の問題にぶつからせる
個人的な体験の意味、現実社会(自然も)の問題の意味を考えさせる
その問題と、自分の生き方を関係させて、考えさせる
「自己理解」と「対象理解」の相互関係 対象理解は自己理解のため
? 国語科と他の全教科の関係
内容=知識 → 国語科以外の全教科
形式=思考・論理のトレーニング=能力 → 国語科
? 読解指導がすべての前提
(1)読解=論理トレーニング
(2)「文を書くとはどういうことか」を学ぶ
1.テーマと結論、2.それにもとづく構成、3.文体の選択的使用
? 表現指導
(1)目的
目的は、高校生が自分のテーマ、問いを作ること
「答え」を出すことよりも、「問い」を立てることが重要
「仮説」は最初は不要。「問い」が立てられればOK
(2)表現指導の3要素
1.自分史、経験の作文 描写。小説のような表現
5W1H、気持ちや感情、思いや考えも書く
自己相対化、客観的な表現を学ぶ
2.調査し、取材する文 説明文、意見文 → 「レポート」
客観的な事実(事件)、統計、図表も
文献の要約
フィールドワークと取材 →「聞き書き」
3.総合する レポート、意見文 → 論文や小説
※???のすべてで、最初は事実レベルの把握、表現から始まる。
次第に、事実の「意味」の叙述を加えていく。
(3)表現指導の系統案
1年 自分(生活経験)→ 仕事、家族史(戦争体験) → レポート
2年 自分史 → 関心のある社会問題、自然科学 → 論文
3年 自分(進路、進学) → 進路、進学に関係する社会問題、自然科学
→ 志望理由書、小論文など
(4)文体の教育
1.描写 ※この発展形が物語や小説
2.説明文 →意見文 ※この発展形が小論文・論文
? 教師の課題
(1)課題
1.表現のどこに課題を見いだし、次の指導につなげるか
対象への認識、自己への認識の深まりをどう理解するか
それには、論理的な理解と指導が不可欠
2.「きれいごと」をどう排除し、「問い」を立てるか
(2)教師の自己研修が不可欠
実際の生徒作品をたくさん読み合いながら、先行者から学ぶしかない
※学校内部、国語科内部での学習会や外部の研修(鶏鳴学園や作文研究会)
【参考文献 中井浩一著『日本語論理トレーニング』(講談社現代新書)、『脱マニュアル小論文』(大修館書店) 】
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