高校作文教育研究会は、一昨年秋から2年ほどの予定で、会のテーマを「聞き書き」として、聞き書きの可能性、授業で実践する際の具体的手だて、その課題などを検討しています。
この間、私たちの例会や全国大会に、各地の中学、高校のすぐれた実践家10数人ほどをお招きし、みなで共同討議をしました。聞き書きに関するさまざまな課題について、生徒作品を丁寧に読みながら、具体的に考えてきました。
その成果は、昨年6月から雑誌「月刊 国語教育」に連載中です。
さて、連載も来年の三月までとなり、いよいよ全体の総括をすることになり、11月3日に、総括座談会を行いました。
そのために提出したレジュメを以下に発表します。
なお、当日、私のレジュメの二について、
「主観的心情」や「主観的感想」をレポートに書くことをめぐって意見交換があった。
これについては、物理学者だった木下是雄氏の『理科系の作文技術』(中公新書)が有名だ。そこでは「主観的な感想」を排除することを求めている。
「理科系の仕事の文書」とは「事実(状況をふくむ)と意見(判断や予測をふくむ)にかぎられていて、心情的要素をふくまない」。その中には、「原則として『感想』を混入させてはいけない」のだ。
これについては、『理科系の作文技術』として論考をまとめ、2010年4月13日のブログで紹介した。
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「聞き書き」の総括座談会のために
2010/11/03 中井浩一
一 表現指導の体系
他者理解
現実社会(特殊)客観的
調査をもとに意見をまとめる
説明、意見文
自己理解(主体的)
個人的体験(個別) 総合(一般的知識=普遍)
描写の作文 志望理由、論文
※3年間であり、1年間でもあり、毎回の作文の3要素でもある
※毎回、内容面と形式面で、少ない課題を確実にこなしていく
※内容で、題材の表などを用意したらどうか
二 取材、インタビューの2種
(1)事実(データ)と対象(社会問題や自然科学の問題等)が中心。
調査は事実収集が目的。(社会科や理科のレポートや論文)
1.事実(データ)と対象が主で、語り手は副。データを持っていれば基本的には誰でも良い。
2.問いが個別具体的に明確で、答えを出すのが目的。
3.社会問題や自然科学の問題
(2)人生や経験、生き方が中心(国語科が引き受けることが多い)
1.語り手が主、事実と対象は副。語り手の視点、語り手の価値観が大きい。
対象や事実は語り手による理解(感情を含む)を通してしかわからない。両者の間にズレがある。
どう語ったか、どう表現(感情を含む)したか。そこに語り手の価値観が出る。
物語化が起こりやすい。
2.問いあるが、答えはすぐには出ない。
3.人生とは何か、どう生きるべきか。戦争とは何か、働くことの意味とは何か、といった大きなテーマが問題になる
(3)国語科の役割 ※これが重要
普通には(2)だと思われているが、(1)と(2)は完全には切り離せない。国語科は全体の指導すべき
三 聞き書きの根本的な本質。その可能性と問題点。
(1)「聞くこと」と「書くこと」が一つになっている。
1.「聞くこと」
対象
聞き手(自分) 語り手(他者)
※「他者」や現実社会に直面する
2.「書くこと」 対象
書き手(自分) 読み手(他者)
(2)矛盾 その可能性と問題点
1.普通は、語り手=自分=書き手。主体が1人。
2.それに対して、聞き書きは、語り手と書き手が違う。主体が2人いる。
話し手、語り手の表し方。聞き手、書き手の表し方。ここに問題が起こる。
四 表現一般の2種類 ※日本作文の会の「定式」との関係
(1)描写
対象のイメージが浮かぶ。直接的で五感でとらえ、読者の五感に訴える。
書き手の対象との一体化
(2)説明
間接的で、対象は一般化されてとらえられ、意味づけされる。
(3)普通は両者をともに使用する。必要な場合わけで、両方が使用できるようにしたい
五 「聞き書き」の表現上の2種類。
(1)説明風
1.「私の父は…と語った」。「程塚氏は、…と語った」。
2. Q&A 方式もある。
(2)1人語り。これは二の(2)に特殊な形式
(3)聞き書きの発展形として、ルポや一般化した論文、小説や物語がある
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