5月 17

2010年から、私のゼミで関口存男の冠詞論と取り組んできた。不定冠詞論から始めて、定冠詞論をこの4月に読み終えた。
 この世界一の言語学から学んだことをまとめておく。
 
1.名詞がすべてである ― 関口冠詞論から学ぶ ―  中井浩一
2.判断の「ある」と存在の「ある」の関係 中井浩一

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判断の「ある」と存在の「ある」の関係
                     中井浩一
目次
1.問い
2.判断とは名詞が主語と述語部に分裂すること
3.存在の「ある」
4.存在の「ある」から判断の「ある」が生まれた →本日5月17日
5.すべての動詞は名詞の分裂から生まれた →本日5月17日
6.判断の「ある」と存在の「ある」についての関口存男の意見 →本日5月17日 

                                    
4.存在の「ある」から判断の「ある」が生まれた

ではこの存在の「ある」は、判断の「ある」とどう関係するのか。
上記の判断の形式は、結局、存在の「ある」から生まれた、というのが私見である。

Die Blume ist rot.    この花はある 赤い(赤く、赤)。 
Die Blume ist shoen.  この花はある きれいだ(きれい)。
Die Blume ist klein.   この花はある 小さい(小さく)。
Die Blume ist ein Rose. この花はある バラ。 

Die Blume ist(「この花は(が)ある」)とはDie Blume (「この花」)と同一なのだ。
そして、「この花」から外化した、「赤い」「きれい」「小さい」「バラ」などの諸性質、本質を「この花は(が)ある」の外に外化させる。これが判断の形式だ。
存在の「ある」を入れることで、分裂と外化を明示しているとも考えられる。
さきに、「ある」には具体的な内実はなく、その上に付け加わる「赤い」「きれい」「小さい」「バラ」によって初めて具体的な諸性質が表されると述べた。これは、「ある」がその次に具体的な諸性質を誘導する役割を果たしているとも考えられる。
だから、極端に言えば、判断の「ある」はなくてもよいのである。事実、これがなく、主語と述語部をぶっつけて置く言語(ロシア語)があることを、世界的ドイツ語学者の関口存男は示している(『不定冠詞』249ページ)。

なお、日本語の場合を考えると、日本語の判断では「ある」が最後に置かれることだけが、西欧語と違うことがわかる。
この花はある バラ。と表現する西欧語に対して、
この花は バラ である。と表現するのが日本語なのだ。「この花」と「ある」の間に、「バラ」「赤い」「小さい」などを入れてしまうのだ。
 外にぶつける西欧語と、内に含みこもうとする日本語の違いだ。

                                     
5.すべての動詞は名詞の分裂から生まれた

 今、特別な動詞「ある」について考えたが、他の動詞はどうなのか。

(5)Die Blume ist.
(6)Die Blume riecht.
(7)Diese Blume zieht Leute an.

(6)この花はにおう。
(7)この花は人を引き付ける 

(6)と(7)の動詞、動詞部分も、実は「ある」と同じなのだ。つまり、「この花」の諸性質が外化したものでしかない。普通はこれを判断とは呼ばないが、実は同じ分裂が起こっているのだ。ここからわかるのは、動詞であろうが、形容詞や名詞であろうが、述語部に来るすべての品詞は、主語に置かれた名詞からその諸性質として外化したものでしかないのだ。その意味では、動詞は決して特別なものではないのだ。

                                        
6.判断の「ある」と存在の「ある」についての関口存男の意見

関口存男は、判断の「ある」と存在の「ある」について『不定冠詞』で次のように述べている。
「真の基礎的な述語文と思われているSie ist schön, Ich bin muede.等にしてからが、実を云うと此のist,bin の素姓は、本当の繋詞的seinではなく、実は存在のseinなのである。Sie ist schönは、実は「彼女はschönとして存在する」のであって、その関係はSie bleibt schön, 「彼女はschönとしてとどまる」と同じことなのである」(『不定冠詞』249ページ)。
関口も、存在の「ある」から判断の「ある」が生まれたと主張しているのだ。しかし、関口は存在の「ある」がどこから生まれたのかを、説明できなかった。両者を名詞の分裂から統一的に理解することはできなかったのである。
(2013年4月19日)

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