高校作文教育研究会10月例会が30日に行われました。
しばらくは、全国の実践家との交流をはかりたいと思っております。
表現指導には、実にさまざまな取り組み方があります。また、高校には多様な学校があり、多様な生徒たちが学んでいます。そうした多様な実態と、その中から生まれている多様な実践、多様な生徒作品。それらと向き合いながら、表現の可能性を広く、深く、考えてみたいと思います。
10月は以下の3つの報告がありました。
報告の内容
(1)ことばで人と人をつなぐ実践 ?俳句・短歌を中心に?
東京 都立保谷高校 菊池 陽子
現任校の前に勤務した3校(17年間)は夜間定時制をはじめとしたいわゆる底辺校・困難校だった。そうした環境の中で生徒も我々教員もプライドをなかなか持てずにいるという実情だった。
ところが、そうした中でも良い生徒たちと出会え、彼ら、彼女らの表現力の豊かさに学ぶところが多々あった。その時期にしかないみずみずしい表現に心打たれることもしばしばであった。
そこで、「前向きに生きようとする生徒の心の叫びを伝えたい。学力では勝ち目のない他校生と同じ土俵で戦わせたい」と、外部コンクール入選を目標に掲げ、様々な取り組みを工夫した。
「表現に偏差値は関係ない」そう確信するに至った実践の一端を、短歌や俳句を中心に、ご紹介したい。
(2)魔法の言葉で、家族に自らの思いを伝えよう!?小説の学習から、家族との手紙文の往還へ
山形県立山形工業高等学校 安孫子 哲郎
今年の三月十一日、東日本は未曾有の大地震に見舞われた。瞬時のうちに津波で流された、2万人の尊い命。さらに、原発問題、風評被害等。大地震の後遺症は、今もまだ暗い影を投げ続けているのだ。こんな時だからこそ、家族のありかたを見つめ直し、家族の絆を深めることが必要なのではないだろうか。
高校二年の一学期後半、家族とのつながりを描いた、重松清の小説「卒業ホームラン」を学習後、その読書感想文を家族に宛てた手紙文の形でまとめ、家族からの返信をもらう取り組みを実施した。その結果を報告したい。
(3)貧困に向き合う
鹿児島県 神村学園高等部看護科非常勤講師 中俣 勝義
最近、中学校国語科の教材として岩波文庫の『銀の匙』を3年間で読み上げ、灘高校を東大合格者のトップに押し上げたという橋本武の『奇跡の教室』を読んだ。そこには徹底した「横道(授業が脱線し、話題が他へそれること)の教育」が貫かれていた。私はそれを読みながら、ああ、私のやっていることもこういうことだったのだと意を強くしたものである。
私の実践は、小林多喜二の『蟹工船』を30時間かけて読み解くというもので、横道でいえば、学生たちが書いたふたコマごとの講義感想を読み合い深める、『蟹工船』の労働者の姿と現代社会のさまざまな問題と重ね合わせる、というささやかなものである。だが、そこから学生たちの苦痛に満ちた『蟹工船』の姿が浮き彫りにされてくる。
今回はそのなかの貧困ゆえに「体を売る」という問題を取り上げたい。なお、事前に拙著『風のらーふる』を読んでいただけるとありがたいです。