1月 09

1月7日、札幌で講演をしました。

北海道高等学校教育研究会(通称「高教研」)国語部会でのもので、昨年刊行した『日本語論理トレーニング』、3年前に刊行した『脱マニュアル小論文』の内容をもとにお話ししました。
新しい学習指導要領は、私のこれまで行った問題提起を、大いに有効な物とする好機です。

北海道高等学校教育研究会は50年近くの歴史があり、
校長などの管理職、教員(組合)、教育委員会の3者が協力して行っていて、
総会では約2千人が集まったそうです。
高校だけの研究会ですよ。

私も参加した「国語部会」の打ち上げでは、校長も教員も和気藹々と、また時には激しく本音で不満や悩みを話し合っていて、こうした場があることにホットしました。

全国では、管理職と組合、教育委員会の3者が激しく政治対立し、教員の学習会は衰退しているの所が多いからです。

私の「ファン」の校長や先生方と話せたのも、嬉しいことでした。

12月 03

11月28日に東京都美術館で「冷泉家 王朝の和歌守(うたもり)展」を見た。
藤原定家の肖像画が面白かった。プライドの高い、繊細で偏屈で狷介で嫌な奴だったろうな、と思っていたが、その通りの顔だった。
日本の古典を再編集したことや、歌の家を作ろうとした(家元制度の創始者)こと。それが気になる。
 冷泉家の現在の当主が、外婿として冷泉家の当主になったものの当惑し、文化の保存の役割に徹すると腹が据わるまでに時間が必要だったことを書いていた。こうした「家制度」について考え込む。

定家の「明月記」が展示されていて、読みたくなった。幸い、作家の堀田善衛が『定家明月記私抄』 (ちくま学芸文庫 正続) を出している。早速読んでみた。

アマゾンには「紅旗征戎吾ガ事ニ非ズ―源平争闘し、群盗放火横行し、天変地異また頻発した、平安末期から鎌倉初期の大動乱の世に、妖艶な「夢の浮橋」を架けた藤原定家。彼の五十六年にわたる、難解にして厖大な漢文日記『明月記』をしなやかに読み解き、美の使徒定家を、乱世に生きる二流貴族としての苦渋に満ちた実生活者像と重ねてとらえつつ、この転換期の時代の異様な風貌を浮彫りにする名著」と紹介されている。

定家が「プライドの高い、繊細で偏屈で狷介で嫌な奴」だったことが確認されたが、かなりタフであることに驚いた。
 彼は官吏としての出世になりふりかまわず、60歳になっても猟官運動に精を出す。男女関係は錯綜し、定家にも30人近い子どもがいる。それは当時にあってはごく普通のことだった。そして彼は10代から70代までに詳細な日記を書き続ける。これは決して普通ではない。

 俗の俗にあった定家にも感心したが、この本の著者にも感心した。政治と文化の実相、西洋と日本の幅広い領域を視野に入れた堀田善衛の冷徹な目が行き届いている。
 宮廷文化が没落していく中で、サブカルチャーが従来のカルチャーを圧倒していく。和歌を、そして自らを守るために家元制を構想するしかなかったこと。当時の宮中、後鳥羽院の人々、京都の治安の悪さ、鎌倉幕府との関係、官吏としての日常。
 定家のため息、つぶやき、うめきまでが伝わるような本だ。

 

11月 18

11月6日に、全国高等学校長協会の部会である、教育課題協議会において、講演をした。

新しい学習指導要領の意義についてお話しした。
内容は、9月22日のブログで報告したことと同じなので、ここでは繰り返さない。

講演会終了後、全国高等学校長協会の会長の戸谷賢司氏、事務局長の小栗洋氏と話をした。

今の全国高等学校長協会にとっての最大の課題は、高大接続テストである。
このテストの趣旨は、大学生の学力保障のために、高校生の学力保障をしようとするものだ。

しかし、この問題は、突き詰めれば、そもそも、今の日本社会にとって「高校」とは何か、を問うことになる。

高校は義務教育ではないが、一方で97%の高校進学率を持つ。
高校卒業資格は、通学せずとも試験で簡単に入手できる一方で、
通学すると卒業までの単位は膨大で3年はかかる。

小中の義務教育で「落ちこぼれ」た大量の子どもたちが、
そのまま高校に在籍しながら、実態とかけ離れた学習指導要領と単位認定を受ける。

つまり、高校教育とは、日本の教育の矛盾が集約的に現れているポイントなのだ。

そこに、今、民主党の高校教育の無償化の政策が出てきている。
本来は、「無償化」の前に、高校教育の位置づけを、再度、国民的に議論するべきだろう。

11月 16

大修館書店のPR誌『国語教室』11月号が刊行されました。
私が参加した座談会の様子が、「新学習指導要領と国語科の『責任』」というタイトルで掲載されました。

すでに9月21日のブログで報告したように、新しい学習指導要領を入り口にして、これまでの国語教育、学校教育の問題点、その改革の可能性を論じ合ったものです。

他の出席者は以下の3人の教員です。
・藤森裕治氏(信州大学)
・釜田啓市氏(清真学園)
・臼田悦子氏(長野県野沢南高等学校)

9月22日のブログに書いたように、
今回の学習指導要領には画期的な点があります。

第1に、言語活動(思考、判断、表現)を教育活動の中核とし、すべての教科で指導すべき、とした点です。
第2に、その教育活動の中心に国語科が位置づけられたことです。
第3に、リアルな現実、生徒の体験が重視されたことです。
これは、これまでの学校教育、国語科教育の大きな課題の克服をうながすものです。

機会があれば、『国語教室』11月号をお読みください。

10月 30

10月22日、23日の2日間。中学・高校の先生方に「論理教育」のワークショップを行いました。1日に3時間ずつの、ハードなものでした。また、26日には同じ先生方に中学・高校6年間の「表現指導」について講演しました。
インプットとアウトプットの両面で、私の考える教育の理念と具体的方法論をお伝えしました。

これは、東京都立の桜修館中等教育学校で行ったものです。
ここは、中高6年の一貫教育を行っている学校ですが、「論理教育」を理念に謳っています。全校挙げて、全教員による論理教育を試行しています。
その理想の実現のために、私のワークショップと講演は行われました。

桜修館中等教育学校は、都立大学附属高等学校として創立されましたが、この間の都立高校の再編統合によって、4年前(平成18年4月)に中等教育学校(中学・高校の一貫教育校)として再スタートした学校です。各学年4学級(160人)で、6学年合計24学級(960人)の規模。

その売りは「論理教育」で、「本校は、論理的に考え、表現、行動するリーダーを育成し、国際社会で活躍する人材を輩出することを目指します」とあります。
全校でのこうした取り組みは画期的なものです。
また、新しい学習指導要領では全教科での言語活動を謳っていますが、この学校の理念は、その先取りになっています。

昨年に中学3年間の取り組みが終わり、今年は1期生が高1になりました。
来年度には彼らが高校2年になり、全員が「論文」という大作に挑戦し、それを全教員が担当します。
今年は、中学3年間の取り組みの総括をし、来年の論文指導に備える重要な年です。そこで、私の方法論に賛同していただいた須藤勝校長や一部の先生方の要請で、今回のワークショップと講演会が実現しました。

今後、どのような形で、論理教育と表現活動が行われていくのか、実に楽しみです。