6月 06

「ふつうのお嬢様」の自立 全8回中の第3回

江口朋子さんが、この春に「修了」した。
その修業に専念した6年間を振り返る、シリーズ全8回中の第3回。

現状維持ではなく問題提起を目指せ (上)
 ―中井ゼミの原則から振り返る― 江口朋子

■ 目次 ■

A.全体的に言えること
B.各項目について
1.目標「自立」をめざせ
2.目標達成の方法、大きなプロセス
(1)親からの自立
(2)先生を選べ、学ぶ姿勢の確立
(3)民主主義の原則
3.原則に対する態度、立場の問題

■ 本日の目次 ■

A.全体的に言えること
B.各項目について
1.目標「自立」をめざせ

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◇◆ 現状維持ではなく問題提起を目指せ
―中井ゼミの原則から振り返る―   江口朋子 ◆◇
                               
A.全体的に言えること

 原則1?7の観点から自分が鶏鳴でやってきた6年間を振り返ると、これらの原則が達成できたわけでは到底ない。しかし中井さんがゼミの場で、これらの原則を繰り返し話題に出し、問題提起し続けてきたのを聞きながら、少しずつ自分にひきつけて考えるようになり、また実践し始めたところだと思う。これからが、本当にこれらの原則の意味が問われてくるのだと思う。

B.各項目について

1.目標「自立」をめざせ

 今までの自分は、自立するため、また自分のテーマを作るための準備をしてきた段階だった。テーマを作るためには、そもそも自分が何に関心があるのか、心から面白いと思えるもの、ひきつけられるものは何なのかをはっきりさせなければならない。その作業に集中したのがこの6年間だった。
 これからが本当に自立を問われる段階だが、まだまだ自分は自立の意識が弱いと思う。第一に親に対する経済的依存がある。これについては、3.「親から自立せよ」で改めて述べる。第二に、今までは師弟契約をしていた中井さんに頼っている面が少なからずあった。それも仕方ない面はあり、自分一人では先に進めないわけだからアドバイスを受けるのは当然だが、自分でやって先生の意見を聞くというより、中井さんからの提案や助言を受けて考える、行動するということも多々あった。しかしこれからは、現状維持・現状肯定ではなく、自分で自分に対して問題提起できるような目を、自分の中に持つ必要があると思う。
 その必要を感じるのは、もともと自分に問題提起や葛藤、衝突を避ける傾向があるからで、これは自分の過ごした学校生活が特に影響していると思う。つまり、幼稚園に入った4歳から14年間同じ私立の女子高で過ごしたので、そこでの温室状態というか、周りが似た者同士で自分が何者かを問われるほど他人を意識する経験がなかった状態が体に染みつき、無意識のうちに居心地良く感じるようになってしまった。結果として、自分に対しても、他人に対しても、見たくないものに反射的に目をつぶるような、要するに問題点を指摘して先へ進めていくようなことができにくくなったという面がある。
 だからこそ、これからは今までのような守られた世界から外へ出て、他人や世間にもまれて、時には自分を正面から否定されたり、思うようにいかない事態をたくさん経験することが必要だと思う。そうしなければ、今までの自分がある意味そうだったように、自分とは何か、自分のテーマは何かがぼんやりしたままで、はっきりしない。具体化されていかない。
他人とぶつかるということは、自分の未熟さ、低さが露わになることでもある。例えば歌会に参加すれば、そこでの自分の態度から自分が議論の場で問題提起できないことが明らかになる。歌についても、わからないことがいくらでも出てくるし、自分の歌に対する参加者の批評を聞けば、自分の歌の駄目さを嫌でも感じさせられる。千年以上の歴史をもつ日本の歌に対して、足がすくむような、越えようのない壁が立ちはだかっているような不安や恐れを感じてしまうのが正直な気持ちだ。
しかし、まずはそういう自分の現状を認めないとどうしようもない。今は何もわかっていない一番低い段階だが、まずはここから始めて、目の前にある課題を一つずつクリアしていくしかない。いきなり大きい問題に取り組もうとしてもできないし、きれいに取り繕おうとしても仕方ない。どちらかというと学校や家庭で優等生的に振る舞ってきたためか、自分には問題点をさらっと流してきれいに整えたがる傾向がある。石の論文を書いている時もそうだった。しかしどうしたって上手くいかないことは起きる。むしろ問題が起こることが自然なのだ。それならば、一つ一つの問題から目を逸らさず向き合う方が、表面だけ取り繕って済ますより、結局は得るものが大きい。
牛が一度口にしたものを繰り返し咀嚼し続け、反芻しているような、あのしつこさというか粘りを見習って、できることから一つずつ、しかし着実に課題に取り組むという意識が大切ではないかと思う。そうすれば、必要以上に臆することなく外の世界に出て他人と関わっていけると思う。

2.目標達成の方法、大きなプロセス

(1)親からの自立

 自分に対する両親の影響の自覚や相対化は、6年前と比べると進んだと思う。大学卒業直後、自分がこれから何をどうするかを話し合った時は、父親は自分の話を理解できず、むしろ母親は同調する傾向が強かったが、それは母親の理解があったわけではなく、ただ母娘が一体化している面が強いだけだった。その後、自分の関心やその時々の大きなテーマが変わる節目ごとに、両親と話し合ってきた。その結果、例えば父が会社勤めではなく、大学教授という学問や研究を仕事としていることは、大きくみれば自分と似ていること、自分に働くように強く言わないのも、テーマを作ることの大変さを一応わかっていて、父自身職に就くまで時間がかかったことが関係していることなど、両親の言動を背景も含めて考えるようになった。父方、母方の祖父母に対する理解も、以前と比べると進んだ。
 一方、親との関係で今一番大きい問題は経済的に依存していることで、家を出て独り立ちすることが避けられない課題である。そもそも、親に全面的に養われている立場では自立とはとても言えない。衣食住の心配のない安全な場所にいて、本当にいい歌が作れるのか、中身のある仕事ができるのか、他人に対して何か意見が言えるのか、そうした問題に向き合わないといけない。今までは、親に養ってもらっている事実を敢えて見ないようにしてきた面が強く、それを意識してしまうと自分の関心やテーマ作りに集中できなくなってしまう恐れがあった。しかし今は、ひとまず自分のやりたいことがはっきりし、社会に出ていくだけの準備もできたので、自活していく方法を考えるべき時だと思う。
 自分が大学卒業後6年間も働かずに好きなように過ごせたのも、当然両親の影響があり、特に父の影響が強い。父自身、浪人や留年で大学卒業まで人より3,4年時間がかかっており、更に大学院まで進んだので、実質的に社会に出て働き始めたのが30歳近くになってからで、その間学費などで親に援助してもらうこともあった。だから本当にぎりぎりの生活の苦労を経験せず、どこかで親を頼れる意識があり、その意識が自分の子供に対してもあり、私にもそのまま受け継がれている。
 また、「1.目標「自立」をめざせ」のところで、自分に問題提起を避ける傾向があると書き、その理由の一つに学校生活を挙げたが、それ以外に親からの影響もあると思う。要するに、両親もどちらかというと現状肯定で、波風立てず安定した生活を送りたいという気持ちが本音としてあると思う。そしてこのまま親元で生活していると、自分もそういう親の本音を受けた継いだまま、乗り越えられずに終わってしまう。そのためにも、1,2年以内に自活することを目指して、今からその準備を始めていくことが自分にとって大きな課題である。

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