3月 07

■ 全体の目次 ■

1.講演レジュメ
「生きる力」を育てるための小論文・作文指導   
→ ここまで3月6日掲載

2.異文化兄妹 -『自分づくり』のための聞き書きをめざして-
 ― 聞き書きから論文、志望理由書まで ―
(1)異文化兄妹 ―志望理由書―
(2)兄に聞き書きをするまで
→ここまで3月7日に掲載
(3)兄への聞き書き 
(4)両親への聞き書き
→ここまで3月8日に掲載
(5)志望理由書、作文、小論文
(6)聞き書きの課題
→ここまで3月9日に掲載

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2.異文化兄妹 ?『自分づくり』のための聞き書きをめざして?
 ― 聞き書きから論文、志望理由書まで ―

 聞き書きは、高校生が社会と自分を見つめ直す大きな機会になります。そこで生まれた
問題意識を深めていけるような指導を、どう展開できるのか。論文、志望理由書へとどう発展させられるのか。それを昨年の実践から報告します。

 ある女子高生には「不登校」の兄がいました。彼女はその兄を受け入れられずに避けて生きてきました。聞き書きをすることで、その兄と初めて正面から向き合って、彼女に大きな変化が生まれます。「私は今まで何も考えずに言われたことをただそのままやってきた受動的な人間だと感じたし、兄と比べると何と面白みの無い人間なのだと思いました」。
 彼女のその思いを深め、今後に生かせるように指導しようとした試みです。

(1) 異文化兄妹 ―志望理由書―

高校2年、アメリカにホームステイに行った。進んで自己主張をするアメリカ人と協調性重視で控えめな日本人の間に文化の差を感じ強い衝撃を受けた。
しかし文化の違いというものは国民間だけでなく、人と人の間、つまり兄妹にも当てはまるのではないか、いや、誰よりも近い関係なのにそれに気付かず理解出来ない方がずっと重大な異文化の問題ではないかと思い始めた。実は私と兄は異文化兄妹なのだ。
22歳の兄は中学から不登校、大学中退。いわゆる「世間の枠からはみ出た人間」である。現在はサブカルチャー系雑誌のライターをしている。一方、妹の私は友達や部活のために学校に行くことを生きがいとして、「兄はただのプータローだ」と思ってきた。
多くの面で私の方が兄よりも勝っていると思ってきたが、次第に自分の主張や独創的な考え強く持つ兄の方が人間的には面白いのではないか、自分はどこにでもいるような人間のうちの1人ではないか、と不安と疑問を持つようになった。
 そこで、兄は今まで何を考えてきたのか知ろうと思い、インタビューをした。不登校ということで世間を敵に回すことが多かった兄から出てくる言葉は非情に衝撃的だった。今まで兄に背を向けていた自分、周囲の表面的で小さな社会だけを見て生きてきた自分に気づいた。そして何よりも、私と兄はそもそも互いに持っている文化が違うのだと感じたのだった。
 異文化というと、国民間や民族間のことだと考えていた私にとって、人と人との間にもあるのだという発見は、大変興味深いものであった。
 そもそも文化とは、どのようにして生ずるのだろうか、どうして兄妹という同じ環境で育った人間同士でも違う文化を持つようになるのだろうか。これらの疑問を、さまざまな背景を持った留学生や、学生が多く、多彩な教授陣に恵まれた環境で追求したいと思い、貴校を志望した。

 これは二〇一一年度の上智大学総合社会学部の自己推薦入試で提出された「自己推薦書(志望理由書)」だ。著者は私立女子校の高三生(N.M)。Nには「不登校」の兄がいた。その兄の聞き書きをすることで、彼女に大きな変化が生まれた。
 聞き書きは、高校生が社会と自分を見つめ直す大きな機会になる。そこで生まれた問題意識を深めていけるような指導を、どう展開できるのか。論文、志望理由書へとどう発展させられるのか。それを報告したい。

(2) 兄に聞き書きをするまで

 Nには、二〇一一年の一月に受験を振り返る文章を書いてもらった。そこから引用しながら(冒頭と末尾に※をつける)、先の志望理由書が生まれるまでの過程をご紹介しよう。
 
 ※高2の春、鶏鳴(弊塾の名前)に入った時の私は将来の夢も、時に興味のあることもありませんでした。高校2年の夏にホームステイに行き、何となく‘国際系‘がやりたいと思うようになりました。しかし、あまりにも漠然的すぎて具体的な事は考えても分かりませんでした。2学期の作文の授業でホームステイについて書き、「異文化」に興味が湧いてきました。※

 Nは高三の四月には立教大(異文化コミュニケーション学部)、上智(総合人間学部社会学科)に自己推薦入試(AO入試)で受験することを決めていた。そこで異文化に関係するような現場取材と聞き書きを課題にしたが、なかなか取材先を見つけられない。

 ※この頃の私は、とにかくAOで使えそうなネタなら何でもいいやとがむしゃらになっていたと思います。そしてとっさに思いついた、兄にインタビューをする、という事を言ってみると先生は「それだ!それが面白い!」とおっしゃいました。
 国民間の異文化についてホームステイを理由にしてずっと言っていた私に「兄妹間の異文化だ」と中井先生はおっしゃいました。何となくまだ国民間の異文化を捨てきれずにいましたが、なるほど面白いと思ったし、これはこのような兄を持った私にしかできない考え方だと思いました。※
 

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