7月 06

『資源の循環利用とはなにか』細田 衛士 (著)の読書会の報告

5月24日(日曜日)の読書会では、『資源の循環利用とはなにか──バッズをグッズに変える新しい経済システム』細田 衛士著(岩波書店2015/2/14)を読みました。

環境保護運動は一面的なものになりやすいようです。
「エコおばさん」たちの言動におかしなものを感じることも多いですね。それは物事の現象面しか見ていない視野の狭さ、コストを無視した非現実的な発想、自分の正しさを疑わない独善的な振る舞いなどが、気になるからでしょう。
本書も、ある意味では環境問題を考えた本です。しかし、国内の、そして全世界における産業構造から経済学的に考えています。物事の両面性や、コスト面を含みこんだシビアで現実的な対策を出しています。

工業化社会では、資源(原料)から製品(商品)を生産する過程が中心に考えられてきました(これを本書では「動脈経済」と呼びます)。製品を生産し、それを商品として売るまでだけが意識され、それが消費されて捨てられる過程は無視・軽視されてきたのです。

実は、生産過程ですでに大量の廃棄物が生まれています。それを無視すれば「公害」として跳ね返ってくることは学びました。今では、生産過程や消費過程で発生する大量の廃棄物、その回収と処理、リサイクルが問題になっています(これを本書では「静脈経済」と呼びます)。しかし生産過程(「動脈経済」)と、「静脈経済」を一体のものとしてはとらえられませんでした。本書は、それを一体としてとらえようとするものです(75ページの図を参照してください)。その結果、新たにたくさんの課題が見えてきます。

当日に発表したレジュメと参加者のコメントをもとに、私見を以下にまとめました。

■ 目次 ■

資源の循環利用には、発展的な理解が必要だ 中井浩一

1.本書全体として
(1)経済の大きな転換点についての根本的な考察がある。
(2)欠点は発展的な考えと対策を求めながら、著者自身にその自覚も能力も不足していること  
(3)読者対象
(4)用語に問題が多い
2.全体と2章の構成への代案
3.大きな問題
(1)発展という見方
(2)経済(自由経済=市場経済)と法との関係
(3)日本の環境保護運動の問題 7章
(4)ナショナリズムと先進国と後進国の対立(いわゆる南北問題)をどう考えるか  
(5)人間の心理、感覚、感情の位置づけ
(6)本書の問題は、3・11後の福島の原発事故で端的に示された。
(7)EUの認証制度は重要  

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資源の循環利用には、発展的な理解が必要だ 中井浩一

1.本書全体として

(1)経済の大きな転換点についての根本的な考察がある。

1.経済の大きな転換点

20世紀までの経済と21世紀以降の経済が大きな転換点にあることがわかる。
本書はそれを「資源(原料)」という観点から述べている。

2.「全体」的で「発展」的な見方 根源的な考察がある。

現実の厳しさに押されて、事実上、発展的な見方に追い込まれる
     それがすぐれた成果を生んでいる
     「潜在的な資源を顕在化する」がテーゼ
資源の「始まり」から「終わり」までの全体を1つの円環構造としてとらえる。
     これは「発展」的な見方そのもの。また、そうでなければ、それは不可能。
そうした段階にまで、人類の経済が発展したとも言える。
     「業界の思いを救いあげていく」(225ページ)

3.この考えは単なるモノに限られず、文化まで広げて考えられる

      だから、本書は「地域資源」経営とも結びつく。
「地域資源」経営は、本来はこのレベルに立たないと解決ができないだろう。

4.新たな分野の開拓者として、問題提起が多い

(新たな事実の提示と問題と政策)
      「問い」の重要さ(21ページ)

(2)欠点は発展的な考えと対策を求めながら、
著者自身にその自覚も能力も不足していること

    特に構成と展開のひどさ 読みにくく、わかりにくい。
細田は展開をきちんと考えられていない。
総論と各論、本質と現象、理論と実践、一般論と具体論、本質論と戦術論
の区別が弱く、ぐちゃぐちゃになっている。

特に2章の内部がひどく、全体もひどい
彼自身が、第1部、第2部、第3部の構成を説明しているが(序章の22ページ)、
そのようにはなっていない。
いろいろな章で、前に出てきた話が何度も繰り返されるのは、構成が悪いから。
  

(3)読者対象

細田は専門家を相手に語ることはできても、普通の人を相手にできない
本書の読者対象は、業界と行政ではないか(行政と一緒に研究している人)
市民たち、消費者、主婦たちの役割が書かれていない

(4)用語に問題が多い
 
あいまいだったり、わかりにくかったり、御都合主義だったり
    これは細田というより、学会全体の通弊。
「トレードオフ」とは「矛盾」のこと。そう言えない。
「二重の資源問題」(6ページ)
「希少性」(37ページ) なぜ交換価値でだめなのか
「情報の非対称」(44ページ)
  「インフォーマル」→ヤクザ、ブラック企業

                                           

2.全体と2章の構成への代案

全体を以下の様に展開したら、読みやすく理解しやすいと思う。

(1)動脈経済と静脈経済 (2章)
75ページの図から始める。6ページの図はわかりにくい
この図の上の動脈経済と下の静脈経済の関係を説明(73?75ページ)することからすべてを始める

(2)経済の新たな発展段階と、要請される新たな経済学 (2章)
従来の経済学と政策は動脈経済しか考えていなかった。
現在では静脈経済をも視野に入れて、全体を考えないといけない発展段階になった。
  
   2章の社会主義批判や「格差」への言及部分は不十分だと思う。
工業化の過程で、資本家と賃金労働者の対立が激化すると社会主義が生まれた。
衣食住の基本部分の工業化の段階までは社会主義が有効だった。
しかしそれを越えて、付加価値が重要になった段階で、社会主義は敗北した。

(3)静脈問題の本質 (3章、4章の4)
1.静脈問題の顕在化
1.1先進国で60年代から70年代に、公害や汚染への対策が必須になった
1.2その後、潜在的な資源であることが意識されるようになった。
   2.現在は、グローバル化の流れの中で、
先進国と後進国でこの資源をめぐる葛藤がある。
2.1先進国を後追いする後進国
2.2先進国のリサイクル資源を資源とする後進国

(4)静脈問題の対策の歴史と現状とその課題
日本 (3章の1、7章、8章)
アメリカ (7章、8章)
EU (7章、8章)

(5)日本は今後どうすべきか (8章、9章)

                                           

3.大きな問題

(1)発展という見方 特に6章の3

1.an sich をfeur sich にしていくのが資源経営(78ページ)
     これだけでは不十分
2.「始まり」から「終わり」までを見通した経営を、強く打ち出すべき
全体が循環する ヘーゲルの円環運動 「発展」。ヘーゲルの「総体性」
「終わり」の自覚はある。 「最終処分場」(6章193)に言及している
「成熟化」(8章)とは発展のこと
マテリアルリース 272ページ、EU「資源効率性」273ページは重要
3.全体の関係性がオープンで透明になっていることが重要
「公開」と「説明責任」が必要なのだ
4.「縦割り」行政の弊害 (202,3ページ、125ページ)
行政はもちろんだが、業界団体も同じ。

(2)経済(自由経済=市場経済)と法との関係

1.ヘーゲルの『法の哲学』のような理解が重要
     事実どうなっているか、その中の理念の運動を見抜いていく。
2.「自由か規制か」が問題なのではない
     ここを細田は、よく押さえていると思う。
細田の言いたいことをまとめると以下になるだろう。
     市場が失敗するから、市場が機能するために調整機能(市場に対する制限)を市場自身が求めており、それが可能なのは「政府」しかない。
 
目的(課題)とその手段(解決策)(104ページ)が問題なだけ
「規制緩和」のあいまいさ(127ページ)
「強化」だけではだめ(104ページ)
アメとムチ(促進策と規制策)(141ページ)
3.「誰が」全体を管理するのか 274,276ページ
     国家か、行政か? 
ソフトローが重要 業界団体、市民たちの参加が必須
4.小型家電のケースは面白い
     ヨーロッパの「認証」制度の意味

(3)日本の環境保護運動の問題 7章
1.問題
1.1市場、経済合理性の無視 資本主義の威力の無視
1.2潔癖症、完璧主義、自他の区別なし、日本人の「きまじめ」 
正義が暴力になる
一部の「正義面したエコおばさんたち」のバカさ加減を的確に突いている
2.この2つが「原発」への日本の対応の失敗になった
3.「学習」が組み込まれない運動は堕落する
運動の中心には、常に学習があるべき
4.ビジネスを目指すべき 「ソーシャルビジネス」という名の甘えもあるのでは
5.EUとアメリカと日本の違いは何に由来するのか 8章
唯物史観からどう理解したらよいのか

(4)ナショナリズムと先進国と後進国の対立(いわゆる南北問題)をどう考えるか
   みなが豊かな生活をおくれるようになることを、大きな方向性として考えるべき。
本当の問題は先進国のデフレ 先進国で成長そのものができなくなったこと

(5)人間の心理、感覚、感情の位置づけ
「きたない」のは嫌だ、見たくない、は生理的な反応(117ページでは言及)。
このことをどうとらえるか。

(6)本書の問題は、3・11後の福島の原発事故で端的に示された。
本書は、具体例としてこの問題に触れるべきでは?

(7)EUの認証制度は重要
    基本的には市場にまかせつつ、国民の自発的で自覚的な選択をうながすことで、
問題を解決しようとする。

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