2月 13

中井の短い文章を8つ、毎日掲載します。

すでに発表した文章群に続くもので、通し番号をつけておきます。

1つ1つが、みなさんへの問題提起のつもりです。みなさんの刺激になることを願っています。

本日から、毎日以下を掲載します。

10 「反文化(カウンター・カルチャー)」運動の3人  
11 「カタログ」文化
12 改めて、「公開の原則」
13 身体の声に耳傾ける方法
14 ヘンデルのメサイア
15 ジョブズと『Whole Earth Catalog』(全地球カタログ)
16 「iPS細胞」の姑息
17 再生医療の矛盾と倫理

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◇◆ 10 「反文化(カウンター:カルチャー)」運動の3人 ◆◇

 中井ゼミのメンバーに、うた、詩、音楽、舞踊・舞踏に、またその根源は何かに、強い関心を持っている人がいる。私もかつて20代には、そうしたことに強い関心を持っていた。

1960年代から70年代にかけて、全世界に「反文化」の運動が展開された。人間の自然破壊を問題にし、資本主義、帝国主義への批判を根底に持ち、そうした諸問題への批判が、西洋文明そのもの、西洋の近代思想全般への批判に拡大した。そしてその解決のためには、すべての根源に迫り、根源を考え、根源から変えていこうとする運動になった。
それはマルクスの思想に大きな影響を受けている。疎外と根源性という観点である。マルクスの資本主義への批判の根拠は、それが人間を疎外するというものであった。その疎外の現実のあり方の研究から、剰余価値や搾取の構造を明らかにし、プロレタリアートがブルジョアジーの国家を打ち倒すことで疎外を解決しようとするものだった。
つまり問題は疎外であり、その解決のためには、すべての根源にさかのぼればよいことになった。
この疎外論は、始まりに原初の統一があり、そこからの疎外に問題があるから、始まりの始原、根源に戻れば良いとするものだったのだ。(本当はこれはフォイエルバッハの立場であり、マルクスは最初の始原に対立矛盾を考えようとする。この2人の根底にはヘーゲルの本来の発展観がある。)
社会、経済、政治への批判は、日々の生活やそこでの意識の改革、男女の性関係や性意識の改革まで拡大され、人間の体や心のこわばりの問題としてもとらえ直され、人間の無意識、そこでの欲求や衝動の抑圧の問題としてもとらえ直された。
こうした西洋文明への批判は、東洋への関心ともなり、西洋と東洋を総合しようとする志向ともなった。
この「反文化」の運動は、第2次大戦後のアメリカとヨーロッパの若者たちから生まれたもので、全世界に広がった。アメリカでは「ビート」がその中心で、そのビート運動の中心は詩人たちであった。アメリカには変革運動は詩人から生まれる伝統がある。その詩の内容は、社会と文明を批判するものだが、それは詩の形式をも生まれ変わらせようとする。詩は目で読むものではなく、朗読するもの。人間の呼吸、息、心臓、といったからだの運動やリズムにひきつけて詩をとらえ直す。
それは、人と人との直接的なコミュニケーションを生み出す媒体であり、そこには人間の共同性、共同体が現れる。
ビート運動の中心には2人の詩人がいた。アレン・ギンズバーグとゲーリー・スナイダーである。
ゲーリー・スナイダーは、東洋への関心が強く、若き日に日本の大徳寺で禅の修業をした。日本の若者たちと「部族」をたちあげ、共同体運動や環境保護活動を展開した。ここに日本のヒッピーたちの始まりがある。
こうしたアメリカの思想運動に総合的な奥行きを与えたのが、オルダス・ハクスリーである。彼はもともとはイギリス人であり、著名な科学者を多数輩出したハクスリー家の一員。D・H・ロレンスの弟子であり小説家である。『すばらしい新世界』が有名だ。後にアメリカに移住して「反文化」運動と接点を持ち、大きな影響を与えた。
ハクスリーは子どものころから身体性の問題に強い関心を持ち、意識の拡張にも関心をもっており、神秘主義に親しみ、鈴木大拙とも親交があった。全世界の文化的な遺産を総合的にとらえなおし、東洋と西洋を1つにすることに主眼があった。マリファナ(大麻)が人間の精神活動において有効であることを発見した先駆けの一人。こうした立場の表現としては最晩年の小説『島』がある。

さて、この「反文化」の運動に、私自身は20代において出会い、大きな影響を受けた。しかし、その限界を意識し、その克服のために、ヘーゲルとマルクスを学ぶために牧野紀之のもとで修行することになった。それが私の30代だった。今、その限界とは「疎外」「根源」の理解の不十分さ、つまりそこには発展についての深い理解がなかった、と考えている。
そのヘーゲルとマルクスについての私見を本としてまとめた今、この「反文化」の運動についても、今後、総括していきたい。今回はそのための「導入部」である。

                             2022年8月4日

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