12月 05

10月の読書会の記録(海堂尊『救命ー東日本大震災、医師たちの奮闘』) その3

大学生・社会人のゼミの、今年の秋の読書会のテーマを、東日本大震災で提起された問題としました。それを自分の問題として受け止めていくことを目標とします。

10月には海堂 尊 (監修)『救命─東日本大震災、医師たちの奮闘』新潮社 (2011/08)を取り上げました。

■ 目次 ■

6、各章の検討
【5】岩手県上閉伊部大槌町 植田医院 植田俊郎
【6】宮城県歯科医師会 大規模災害対策本部身元確認班長 江澤庸博
【7】岩手県陸前高田市 県立高田病院院長 石木幹人
【8】岩手県宮古市 国民健康保険田老診療所所長 黒田仁

7、読書会後の感想
8、記録者の感想

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6、各章の検討

 ※以下、本読書会で取り上げた内容を「・」で示し、それに対する中井先生の考えを「→」で示した。

【5】岩手県上閉伊部大槌町 植田医院 植田俊郎

→危機意識がない、良く助かったと思う。でも趣味の山登りで日常的に自然災害を経験しているので強い。だから行動や考え方が実践的。

? 大槌町の医療体制の話。民間の診療所と大槌病院は医者もスタッフも仲がいい。(p.117)
→仲がいいのはある意味当たり前。診療所の開業医と公的な病院の勤務医が本当に連携してやらないと、医療を支えられない。また、「商売敵っていう感覚がない」という意味は、みんなで助け合ってやらないと成り立たないくらい厳しい状況があるという事。

? 田舎の医者である父に反発。しかしそこには地域との密接な関係がある。(p.123)
? 親父の口癖は「俺たちは患者さんに食べさせてもらっている」(p.124)
→これが地域医療に従事している人の意識。そこに感動してしまう。

? 被災地の医療に関わっていると、責任感から自分を追い込み、他の医者への批判が出てしまう。しかし、もっと謙虚に患者さんや被災者に寄り添う姿勢が必要。(p.126)
→とても大事な事を言っている。特殊な状況の話ではなく、一般的に、一生懸命やっているつもりの人というのは他人に対してすごくキツい事を言う人が多い。そう言う人はほんとはあんまり頑張ってない人だと思う。頑張ったら、謙虚さが出てくる。

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【6】宮城県歯科医師会 大規模災害対策本部身元確認班長 江澤庸博

→なぜ歯医者が出てくるのか、歯科医が身元確認をやっている事実を、これまで知らなかった。

? 被災2日目に休ませてもらい、自分がどうしてこれをやるのか、自分の役目を考える。災害地に診療所を構えた僕の役目。そして、あの一日があったからそのあと、何ヶ月も続いて、今もやっているの自分を支えられている。(p.142,143)
→心が動かされるし、とても大事なことだと思う。無理に続けてしまった後のギブアップは立ち上がれないものになってしまう。
→歯医者は普段、死体とは向き合わない。あまりにも悲惨な状況の中での過酷な仕事だから、精神的におかしくなる事が起こるのは当たり前。仲間同士で休みをとり、確認する時間を取ったことは心に残った。

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【7】岩手県陸前高田市 県立高田病院院長 石木幹人

→お荷物病院と呼ばれた病院を地域密着型に改革して黒字に転換させたという経営手腕のある人であり、終始たんたんと語り、組織的にシステムを考えているなかなかの人物。
→編集がなかなかうまい。それまでふれられなかった妻の死が途中で突如でてくることや、娘が女医になって自分の病院に赴任してくる終わり方が、実に鮮やか。

? 薬が足り無い状況の中、通りがかった薬問屋の車を止めて直談判(p.194)
→とにかくふんだくってもやらなきゃいけない。行政にお願いしている場合ではない。

? 3月15日に副院長がダウンしてしまう。(p.198)
→病院スタッフへの気遣いが足りなかったことが、この人の唯一の反省点。すごい。

? 情報が何も入らないのは不安だが、入ってくる情報をうかつに伝えるのもまずいなと思った。(p.189)
→被災して精神状態がいっぱいいっぱいの人に対しては、一方で心の問題もある。このレベルで情報を抑えなければ行けない。しかし、それと国家が情報を抑えることとはレベルが違う。国レベルではできる限り情報操作をせず、できるだけ早くすべての情報を公開すべき。

? 病院再建に向けて。外来機能の回復→訪問診療というプロセス。(p.202)
? 当時赤字だった高田病院を高齢者に目を向けた病院作りを実践して黒字化。(p.204)
? 住民との懇談会を頻繁につくっていく。(p.208)
? 新しい病棟の立ち上げは、今回のような津波がきても被災しないようなところに作らなければいけない。(p.209)
→石木さんは病院再建の際もすぐに段取りを立ち上げられる。
→高齢者にとっては病院と関係を作ることが、生活の質を保ち、最期の看取りの段階では死を受け入れる気持ちを作って行くことに繋がるのではないか。地域の医療を作り上げるとはまさにこういう事なのではないか。
→石木さんはとても立派な人だと思う。

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【8】岩手県宮古市 国民健康保険田老診療所所長 黒田仁

? 防潮堤が果たしてくれた役割(p.218)
→防潮堤のプラスの面にしか触れない。むしろ防災意識を弱めたという矛盾がある。

? 現場を見ていない役人を信用できなくなった(p.228)
→役場の事を悪く言う。確かにその通りだが、役人を動かせないとダメなのではないか。石木さんも批判している。「思うように行政が動いてくれない時には落胆する」(p.208)この2人の違いはなにか。

? 「ミイラ取りをミイラにしない作戦」(p.237)
→消防士、看護士、行政、自衛隊など支援する為に頑張っている人たちのこころのケアはものすごく重要。この人たちは役割上、傷ついていることを言いにくい立場にある。そういう人たちをこそ、ほんとはケアされなければいけない。こうした判断はとても重要。

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7、読書会後の感想

? この本がどういう経緯でつくられたのかが分からない。
→着眼点は素晴らしい。一人一人の経験談。その一つ一つが核心的な今の問題に触れている。だからこそ、重い問題がそれぞれの経験から見えてくる。また、本を売るためには、時期が大事。震災後直ちに企画し、落ち着いた時期に集中的にインタビューをし、夏には出版。

? 医者と患者の関係、ボランティアと被災者関係の中での相互理解の難しさ、他者理解の難しさを感じた。
→一般的に、僕たちが他者に関わることには根本的な難しさがある。この本に出てくる経験は極めて特殊な状況の中の極めて特殊な問題ではあるけれど、それが本質的な問題だからこそ、普段の生活の中の問題として考える事が出来る。

? 被災状況だけでなく、これまでの東北地方の過疎のリアルな状態を知れた。また、今回の震災のように問題があった時に不満の矛先を行政に向けがちだが、中井さんの指摘する「関係なくやってしまうべき」というのは最もだが、実践はなかなか難しいのではないか。
→行政に対してこれだけ不満が出てくるというのは、お上意識の裏返しでもある。行政依存の意識があるからこうなるんだと思う。常識的に考えれば、医療現場がめちゃめちゃな状態で壊れてしまっている時、行政だって同じように壊れていることが分からないのだろうか。だから基本的には、自分で全部やるしかない。

? 医療業界の仕組みをまったく知らなかった。行政の視点、日本医師会と大学病院の対立を踏まえて読めたのが良かった。

? 僕はダメでした。中井さんの話を聞いて面白いなと思えた。

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8、記録者の感想

 本書で描かれているのは震災直後、震災初期の医師たちの奮闘記であるから、その人間ドラマには当然誰もが感動するだろう。そして今回の読書会ではその人間ドラマの中に、これまで日本の医療が抱えてきた問題点、さらには地方の過疎、高齢化、格差などの問題を見て取れることを中井先生の力を借りて確認する事ができた。そしてこれらの問題は被災地の人々の生活がある程度の落ち着きを取り戻していくに従って、より厳しく突きつけられることと思う。
 しかし、今回の読書会では、各章の検討の際にこれらの問題に対して参加者から質問がほとんど出る事はなく、中井先生の独演会のような状態になってしまった。
 なぜそうなってしまうのか?私の考えとしては仕方の無い面がとても強いのだと思う。そもそもこれまで自分が東北地方の過疎の状態に思いを馳せた事など一度もないし、嫌でも東京志向が強い。さらに、これまで社会一般の出来事に無関心でいる状態が長かった分、その意識を変える事は並大抵の事ではないと思う。
 今回の東日本大震災がそんな自分自身の意識を変えるきっかけになった事は間違いない。しかし、それを活かす実践や行動が無ければ、個人のレベルでも今回の震災が何も活かされないまま過ぎ去ってしまう。被災していない我々が東日本大震災で何を考え、何が言えるのかを考えた時に、震災から見えた諸問題に対して本質に迫っていくべく、向き合って行く事が一つの真っ当な姿勢だと思うし、私はそうしていきたい。

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