4月 11

家庭、親子関係を考える その3 「依存」と「自立」と 10月の読書会から

斎藤学『アダルト・チルドレンと家族』(学陽書房)をこの秋にも読書会で取り上げた。この本は親子関係が子供の人生に決定的な影響を与えることを示した点で、またアダルト・チルドレンという命名で、この問題にわかりやすいイメージを与えた点で、社会的に大きな影響力を持った。悪い親子関係は、その子供が親になることで拡大再生産されること、アルコール依存症や暴力に関して、夫婦間での依存関係を明らかにしたことなど、本書の功績は大きいと思う。
もちろん、そこには大きな限界もある。アルコール依存症や家庭内暴力などの「悪い」特殊な親や家庭だけが問題になっていて、一般化ができていないことだ。しかし、一部の「悪い」親や「悪い」家族関係だけが問題なのではなく、「良い」ケースも含めて、すべての親子関係で、親の子供への影響力が圧倒的に大きい(9割は親の影響ではないでしょうか)ことが核心的な問題ではないか。そこでは、良くも悪くも、親子の一体化が起きている。子供は親からの影響をどう相対化し、自分の生き方を選択できるのか。それが真の「問い」であり、真の課題だ。本書の例はその特殊例でしかない。
しかし、今回言いたいのは、そのことではない。「依存」「共依存」の用語法についてだ。これが一見わかりやすいようだが、誤解を与える表現ではないかと思うようになった。
これは、「アルコール依存症」という用語から来ているとおもうが、この本では「依存」即「悪」、「共依存」即「悪」、であるかのような使用法が行われている。

「依存」と「自立」は確かに正反対の言葉だが、実際の関係性においては、両者は対立するだけではなく、深く結びついてもいる。「アルコール依存症」からして、「依存」即「悪」なのではなく、「自立」の面が大きく損なわれた特殊な「依存」症状を問題にしているだけなのだ。
人間はそもそも「社会的な動物」なのだから、すべての人間は社会に、つまり他者に依存して生きている。また、「恋人」「夫婦」などの社会から一応は「閉じた」二人の関係でも、「依存」と「自立」はもちろん切り離せない。「依存」即「悪」といった用語法やイメージは、この面を見られなくするのではないか。
自立した関係とは、依存していない関係ではない。むしろ相互に正しく依存していることが、相互に自立できていることに他ならない。自立と依存は切り離せないのだ。
「依存」か「自立」か。この問題設定は間違っている。「どのような依存が真の自立につながり、どのような依存が自立につながらないのか」。これが正しい問題の立て方だ。
甘え合い、依存しあうことが問題なのではない。その関係が、病をますます悪化させていること、例えれば、デフレスパイラルに陥って抜け出せないような状態になっていることが問題なのだ。それは「間違った」依存関係だから「間違い」なのだ。
この2人の「自立」と「依存」の関係が、家族としては社会に対して「開かれた」家族か、「閉じた」家族かの問題に重なる。ここでも、家庭や夫婦関係が社会から「閉じる」ことが問題なのではない。その「閉じ方」が、正しく社会に「開かれる」ことにならないような関係が問題なだけなのだ。
こうした間違いは、ソ連の社会主義革命の初期にかなり広がったし(ライヒの『性と文化の革命』参照)、1970年代の共同体運動にもかなりあった。
斎藤環が『社会的ひきこもり』で、家族内の個人、家族、外の社会の3者を3つの円でとらえたシステム理解図は大いに有効だと思うが、それはこの3者の他の2者への「開かれ方」=「閉じ方」の全体を見渡す視点を提供したからだ。閉じていることは大前提で、その上に「開かれ方」=「閉じ方」を問うている。
私は、しばしば母子一体化の問題を取り上げ、そこでの共依存関係の問題を指摘する。親には「子離れ」を求め、子どもには「親からの自立」を求める。しかし、母親が子供を生きがいにすることが即悪いのではない。子どもが親に依存していることが即悪いのでもない。その反対の悲惨な例が「児童虐待」である。大切なのは、今の視点と共に、子育ての全体の過程を通して、子どもの自立のあり方を考えることなのだ。そこで問われるのは、そもそも「子どもとは何か」「家族とは何か」「夫婦とは何か」「その目的は何か」である。こうした本質論抜きに、状況や方法だけを論じていてもダメなのだ。

問題を、「依存」か「自立」かといったスローガン形式で示すのはわかりやすく、問題をはっきりと自覚するために有意義に見える。しかし、その結果全体を見失い、両者の根底的な関係とその本質を見失えば、かえって混乱が大きくなるだろう。問題を的確な表現で捉えなければならない理由がわかっていただけるだろうか。善意か否かには関係なく、低い論理能力は低い結果しかもたらさないだろう。

2月 09

大学生、社会人のゼミの2月、3月の読書会のテキストを変更します。
 2月は開始時間も早くなります。
 
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◇◆ 2月から3月までのゼミ(文章ゼミと読書会)の予定 ◆◇

 (1)日程 

 2月6日 文ゼミ
 2月20日 読書会

 3月6日 文ゼミ
 3月20日 読書会

(2)2月の読書会テキストとスケジュール

 2月20日、土曜日の午後3時から5時(6時ぐらいまで延長アリ)ぐらいまで。

 1)ヘーゲルの『精神現象学』「序論」(牧野紀之訳、未知谷)
 2)ハイデガーの「ヘーゲルの『経験』概念」

 『精神現象学』の「序論」は、ヘーゲルの「認識論」(「認識論批判」)と
言って良いと思います。他との違いに愕然とし、
改めてヘーゲルの立っているところのすごさを実感します。

 「どんなに革新的で根源的な思想も、それが現れるときは、
他と並ぶただの現象でしかない」とヘーゲルは言います。
自らの思想もそうだと言うのです。
ではどうしたら良いのでしょうか。

 またヘーゲルは、人間は「自己吟味」によって、自らの力で誤りを正し、
無限に成長していけると言います。これも気が遠くなるようなコメントです。

 今回は、これらの意味を再確認したいと思います。
また、ハイデガーの「ヘーゲルの『経験』概念」は、この「序論」の解説です。
二人の「巨人」対決から学べるものを学びたいと思います。

 参加希望者は連絡ください。詳しいことをお知らせします。

(3)3月の読書会テキストとスケジュール

 3月20日は午後7時より
 テキストは『「個性」を煽られる子どもたち─親密圏の変容を考える 』
 (岩波ブックレット)、土井隆義 (著)です。

 今の子供の世界の変容を、さまざまな少年少女たちの事件から
解き明かそうとしています。「個性」の誤った理解が問題とされています。
この「個性」や「オンリーワン」の背景を考えたいと思います。

1月 01

迎春
 
 昨年1年は不況のどん底で、政権交代も実現し、時代の変化が誰の目にも見えるものになりました。
 こうした時は、改めて一人一人のテーマや問題意識が問われます。それを不幸と受け止めるのではなく、チャンスとしたいと思います。

 大学生・社会人のゼミの1月から3月までの予定です。内容的には2つです

◇◆ 1.1月から3月までのゼミ(文章ゼミと読書会)の予定 ◆◇
◇◆ 2.ヘーゲル哲学の学習会の予定 ◆◇

◇◆ 1.1月から3月までのゼミ(文章ゼミと読書会)の予定 ◆◇

読書会の参加希望者は1週間前に、文章ゼミでは2週間前には連絡ください。参加費は1回3000円です。

ゼミやヘーゲル学習会に参加を希望される方で初めての方は、以下の項目を入れた自己紹介文を添えて連絡ください。

 ?簡単な履歴(年齢、大学・学部、仕事など)
 ?何を学びたいのか
 ?どのようにしてこのブログやゼミを知ったのか、なぜこの学習会で学びたいのか
 
宛先は以下に
  E-mail: sogo-m@mx5.nisiq.net

(1)日程
1月16日文ゼミ(1月の読書会はお休みです)

2月6日文ゼミ
2月20日読書会

3月6日文ゼミ
3月20日読書会

(2)読書会のテーマとテキスト

2月、3月の読書会のテーマは、現場でのフィールドワーク、取材、インタビューの方法と、そのまとめであるレポート、聞き書きの書き方についてです。
大学生も社会人としても、現場での調査と報告が、これからの基本中の基本になっていくと思います。これから実践する人はもちろんのこと、すでにやってきた人も、ここらで振り返ってみる時期だと思います。私もそうします。

テキストは以下です。
? 2月は佐藤郁哉『フィールドワーク』新曜社
2006年刊行の増補版です。1992の版ではありません。

本書はこの手の本として定評のあるものです。
以下はアマゾンから
「フィールドワークの背景にある考え方から方法・技法・機動力を高める情報処理テクノロジーまで、その全体像を精選のキーワードで生き生きと解説。現場調査の質を高めるための手がかり・ヒントを満載。フィールドワークを目指す人が最初に読む定評ある入門書、全項目大幅増補・改訂」。

? 3月は佐野眞一『私の体験的ノンフィクション術』 (集英社新書)

佐野は売れっ子ルポライター。その手の内をさらけ出している本。
以下はアマゾンから。
「私淑する宮本常一をベースにしつつ、処女作『性の王国』から『東電OL殺人事件』『だれが「本」を殺すのか』まで、自作の舞台裏を明らかにした自伝的文章・取材論」。
 「新世紀になろうと、IT時代に突入しようと、人間が生きるうえで調査し、情報を集め、それらを評価して自分のものとする道筋に大きな変化はない。ノンフィクションの方法とは、ある意味で、社会に生きるうえで必要なそれと驚くほど似ている。私淑する民俗学者・宮本常一の「野の取材学」を導きの糸に、節目節目の自作を振り返って率直に検証し、そこに込めた思いを語る。著者がすべての「歩き」「見」「聞き」「書く」人に向けて初めてまとめた、「自伝の面白さ」の文章・取材・調査論」。

? 4月以降は、「日本文化」「王朝文化」なるものの実態を考えてみたいと思います。平安末から鎌倉幕府成立の動乱期に、「王朝文化」を完成させる『新古今集』が編纂されました。この編集には藤原定家になるものと、後鳥羽院の手になるものの2種類が残されました。この両者の対立の意味を考えることが、今日までの日本文化や現代の芸術を考える上での大きな見通しを与えてくれるようです。それを考えます。
テキストは堀田善衛の『定家明月記私抄』(ちくま学芸文庫)と丸谷 才一『後鳥羽院 第二版』(筑摩書房)とを予定しています。

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◇◆ 2.ヘーゲル哲学の学習会の予定 ◆◇

現在、私たちの社会は大きな転換期を迎えています。高度経済成長はすでにはるか昔に終わり、全く新しい世界が生まれています。にもかかわらず、以前の制度や価値観、意識が今も支配しています。もちろん、あちらこちらで、既成の枠組みは破綻を示し、そのきしみが、あらゆるところから響いてきます。新たな世界をとらえ、それに対応する制度を作ろうと、一部の良識的な方々が努力はしています。しかし、誰もそれに成功していません。読者のみなさんは、こうした世界に放り出されているのです。

こうした時ほど、射程を長くして、今の時代の根底からしっかり考え直したいと思います。それは「近代」を徹底的に考え抜くことだと思います。「現代」は「近代」の一局面でしかありません。
ヘーゲルは、近代の原理(概念)をとらえることに成功した最初の哲学者だと思います。今も私たちは彼が規定した世界の中に生きています。彼は、私たちにとっての最強の道先案内人です。

参加希望者は連絡ください。参加費は1回3000円です。
初めての方は、自己紹介文を添えてください。詳細は「1.1月から3月までのゼミの予定」を見てください。

(1)日程など

1月10日の週から開始。曜日は不定期なので、確認の連絡をください。

(2)内容

1)ヘーゲルの原書講読 『精神現象学』序言
序文に続いて、ズーアカンプ版全集の第3巻で読みます。牧野紀之訳『精神現象学』(未知谷)を手がかりにし、ハイデガーの「ヘーゲルの『経験』概念」も参照します。
 
 ドイツ語の全くの初心者も参加できるように、サブゼミなどを用意しています。
 是非この機会に始めてみましょう。

  2)日本語の翻訳でヘーゲル哲学について学びます。
 『精神現象学』の序論に出てきた「存在の運動と認識の運動の一致」を、この夏の原書講読では丁寧に読んでみました。
 それを踏まえて、「存在の運動と認識の運動の一致」について、牧野紀之の「悟性的認識論と理性的認識論」や、マルクスの『資本論』を読んで確認します。

 以下が予定テキストです。
・マルクス 「経済学批判の序説」から3節「経済学の方法」(岩波文庫『経済学批判』311から324ページ)
・エンゲルス 「経済学批判への書評」(岩波文庫『経済学批判』254から268ページ)
・牧野紀之「悟性的認識論と理性的認識論」(『ヘーゲルの修業』に収録)と、『ヘーゲルの修業』の194ページ
・マルクス『資本論』の第1章「商品」論から第4章まで 大月書店の国民文庫の『資本論?』
・許万元の『認識論としての弁証法』(現在は『弁証法の理論』下巻(創風社)として販売しています』)

9月 27

◇◆ 10月、11月の読書会 ◆◇

(1)10月の読書会
 テキストは、斎藤学『アダルト・チルドレンと家族』(学陽書房)です。

 現代の家庭における大きな課題は、子供にとって親からの自立が難しくなっていることです。
 これは親から見れば、子離れが難しいことを意味します。つまり、親子(特に母親と息子)の一体化があまりにも強く根深いために、親にとっても、子供にとっても自立が難しくなっているわけです。
 このテキストでは、それを「親子の共依存関係」として捉えようとしています。さまざまな事例から、親子関係、夫婦関係、兄弟姉妹などの家族関係を考えます。ご自身の家庭、親子関係を考え直すためのヒントに満ちた本だと思います。

 ?日時 10月24日(土曜日)
  午後2時から4時まで
 ?場所 鶏鳴学園

(2)11月の読書会
 テキストは、斎藤環『社会的ひきこもり』(PHP新書)です。

 この本は、今や「ひきこもり」問題の古典的な位置にあります。
 「ひきこもり」、不登校、ニートの問題は、もはや特殊な人だけの闘題ではありませ ん。現在、小中で「不登校」の子供たちは10万人を超え、ニートが100万人を超えると言われています。そして、大学生になってから、また就職してから「ひきこもり」になる人も多くなっているのです。この問題は、結局は、親からの自立の問題なのです。

 ?日時 11月21日(土曜日)
  午後2時から4時まで
 ?場所 鶏鳴学園

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◇◆ 10月以降の文章ゼミと読書会の日程 ◆◇

いずれも土曜日。
文章ゼミは午後7時より。
読書会は午後2時より。※読書会の時間が変更になりました。

午後5時からは参加者の近況報告や問題意識を報告し合う「現実と闘う時間」があります。
 参加費は3000円です。

参加希望者は、文ゼミは2週間前(継続参加者は1週間前)、読書会は1週間前までに連絡ください。

10月10日文ゼミ

10月24日読書会

11月14日文ゼミ

11月21日読書会

12月12日文ゼミ

12月19日読書会

9月 18

 夏休みはいかがでしたか。前半は不順な天気が続きましたね。
 ヘーゲル学習会の合宿中も、ずっと雨が降り(「こんなことは初めてだ」と地元の人も言っていました)、せっかくの八ヶ岳ですが、高原の清澄な空気を堪能できませんでした。

 さて、政権交代も実現し、いよいよ社会が大きな変化を迎えることになります。
 私たちも、社会と自分自身の課題ときちんと向き合い、次のステップへと進む準備をしておきたいものです。

 9月以降のゼミの日程をお知らせします。
 6月の読書会に初めて参加された社会人(女性)の方の感想を掲載しました。
 社会人の方は参考にしてください。
 ゼミでお会いしましょう。

◇◆ 1.9月以降のゼミの日程 ◆◇

(1)文章ゼミと読書会

 いずれも土曜日。文ゼミは午後7時より。読書会は午後2時からそれぞれ2時間ほどです。
 午後5時からは参加者の近況報告や問題意識を報告し合う「現実と闘う時間」があります。
 参加費は3000円です。

 9月19日:文ゼミ

 10月10日:文ゼミ
 10月24日:読書会

 11月14日:文ゼミ
 11月21日:読書会

 12月12日:文ゼミ
 12月19日:読書会

 年末には忘年会を予定しています。

(2)ヘーゲルゼミ

 10月に開講予定。
 毎週月曜日、約2ヶ月間行う予定です。
 午後5時からは原書講読。午後7時から翻訳でヘーゲルを読みます。
 参加費は1回3000円です。一方だけの参加は2000円です。

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◇◆ 2.大学時代以来の新鮮な経験(6月の読書会参加者の感想) ◆◇

 同じ本をみんなで読み、その経験を共有していく、という機会は大学時代以来でしたので、とても新鮮で、楽しかったです。

 今回お会いした二〇代の皆さんと普段の生活上ではふれあうこともあまりないため、自分では忘れていた社会に出始めたころの手探りな感じを思い出しました。
 でも、皆さん、若い頃に中井先生のような師に出会えたということは幸せなことですね!

 仕事が立て込むと何ヶ月も休みが無くなってしまうような生活ですが、また機会がありましたら参加させていただきたいと思います。早速メルマガにも申し込ませていただきました。

 どうもありがとうございました。