12月 03

大学生・社会人のゼミの、今年の秋の読書会のテーマを、東日本大震災で提起された問題としました。それを自分の問題として受け止めていくことを目標とします。

10月には海堂 尊 (監修)『救命─東日本大震災、医師たちの奮闘』新潮社 (2011/08)を取り上げました。

医療現場から見た震災がテーマです。医療とは何か、人間が生きるとはどういうことか、そうした根源的な問いと答えが、ここにあります。

11月には福島県の原発問題を考えました。

今回は、10月の読書会の記録を3回にわけて発表します。

■ 全体の目次 ■

10月の読書会の記録(海堂尊『救命ー東日本大震災、医師たちの奮闘』) 太田峻文

 1、はじめに
 2、この秋の読書会のテーマと今回のテキストについて(中井)
 3、テキストについての参加者の感想
 4、東日本大震災が明らかにした東北地方の問題と医療のもともとの問題(中井)
 5、本書に対する中井の全体的な評価
 6、各章の検討 
 【1】宮城県南三陸町 公立志津川病院内科医(被災当時) 菅野武
【2】宮城県名取市 東北国際クリニック院長 桑山紀彦
【3】福島県双葉郡 富岡中央病院院長 井坂晶
 【4】千葉県松戸市 旭神経内科ハビリテーション病院院長 旭俊臣
【5】岩手県上閉伊部大槌町 植田医院 植田俊郎
【6】宮城県歯科医師会 大規模災害対策本部身元確認班長 江澤庸博
【7】岩手県陸前高田市 県立高田病院院長 石木幹人
【8】岩手県宮古市 国民健康保険田老診療所所長 黒田仁
 7、読書会後の参加者の感想
 8、記録者の感想 
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■ 今回の目次 ■

 1、はじめに
 2、この開きの読書会のテーマと今回のテキストについて(中井)
 3、テキストについての参加者の感想
 4、東日本大震災が明らかにした東北地方の問題と医療のもともとの問題(中井)
 5、本書に対する中井の全体的な評価

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◇◆ 10月の読書会の記録(海堂尊『救命ー東日本大震災、医師たちの奮闘』)
 太田峻文 ◆◇

1、はじめに

 10月29日(土)午後3時から5時まで鶏鳴学園にて読書会が行われた。参加者は高校生1人、大学生1名 、就職活動生2名、塾講師1名、中井先生を含め、計6名。

 今回のテキストは、海堂尊監修『救命ー東日本大震災、医師たちの奮闘』(新潮社)。有名作家の海堂尊を監修に迎え、被災地の医療現場の最前線で活躍した9人の医師たちの経験談が、「一人語り(「私は」で語られる)」の聞き書き形式で収められている。

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2、この開きの読書会のテーマと今回のテキストについて(中井)

? 今回の震災は阪神淡路とはケタが違う。被害規模の大きさという事よりも、これからの日本社会への影響の大きさが違う。明治維新、敗戦の次に大きな転機だと思っており、逆にこれを転機に出来なかったら、僕たちはダメなのではないか。

? つまり、私たちの社会の未解決で積み残してきた問題がもう限界にきているが、それでも目が覚めない人、それでもなんとか先延ばしにしようとしている人たちがいる。それは社会が腐って行く時の一つの典型だと思う。先延ばしにして結局何も解決できないで終わって行く。私は、本気で取り組みたいと思っているので、今回の震災被害にも、出来るだけ向き合って行きたい。

? 今日は問題が一番見えやすい医療について考える。そして今回のテキストは、現場で経験した人自らの言葉で語ったという本だから、その経験を読んで、せめてまず自分の中にその思いを感じるくらいの事はしておきたい。

? 医療は社会の根本の部分でもある。人は必ず死ぬ訳だが、その最期をどう迎えるのが良いのかという問題がある。さらに日本社会が抱えている高齢化社会、介護の問題が大きな負担として社会全体に覆いかぶさっており、それを支えるだけの大家族はもう存在していない中で、どういう最期がありうるのか。震災と関係なく医療に関心がある。

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3、テキストについての参加者の感想

? 漠然と医学部志望だったが、この本を読んで、医療って言うよりも精神科医がどう考えているかという事が分かって良かった。特に、桑山医師の話の中の「共感と同感の違い」について述べているところが一番印象に残った。また、日本人の特性として「語らないのが美徳、ここは我慢のしどころ」という箇所が自分の経験と重なる所があったので強く印象に残った。

? まだ現地にも行っていないこともあって、初めて生々しい所を感じられた。それぞれの医師のケースで事情は違うと思うが、それぞれ人となりが現れていて、人間ドラマとして面白く読んだ。

? 極限の状態になった時に、医者としての使命感が高まり、頑張った人たちの話を聞いていると感動する所が随所にある。本気の人の経験を読むと自分も襟を正される。

? 面白かったのは、地域医療を元々やっている人たちが活躍しているころ。やっぱりいきなり外からやって来た人たちがやってもうまく行かない。患者も全然知らない人に自分の経験を語ろうとしないし、うまくいかない。

? 地域医療には、自分の専門は別にして総合的に人を見るというの重要だと思う。しかし、今までの日本の医療は専門性に枝分かれして行く傾向があり、人を総合的にみるのが弱かったというのがある。それは医療だけの問題ではなく、人を見る時に、見方の問題で自分にとっても関係あるのではないかと思った。

? 自分は8月まで福島にいたのだが、それにも関わらず原発問題に関心があまり持てないでいた。今回、著書を読んでみて、一人一人凄いというのは分かるが 、よくわからないというのが正直な感想。

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4、東日本大震災が明らかにした東北地方の問題と医療のもともとの問題(中井)

? 今回の震災は、見えなかったものをはっきり見える形にし、今まで危機意識を持てなかった人たちが、今の社会が直面している問題に気づくきっかけになるという意味で非常に大きい。

? 震災が明らかにしたものの一つは、東北という地域がなんんだったのかがはっきりした。端的に言うと、福島原発が典型的だが、東京のためにいいように扱われてきた。今の時点において、東北は全体的に貧しく、過疎、高齢化が進んでおり、問題がそこに集約されている。逆に、東京には豊かさが集約されている。ただ、実際には東京にも高齢化は進んでおり、精神的には同じ問題が進行してのだが、とりあえず東京にはお金がある。

? 高齢化、過疎が進んでいるような地域は「地域医療」が構築しなければ成り立たない。だから東北地方は医療が壊れないように頑張った人たちがなんとか支えてきた、地域医療の最前線と言える。そこに今回の震災が来てしまった。元から医療は壊れて訳だから、 本当に再建なんて可能なのだろうか。

? 開業医と勤務医の対立。今回取り上げられた医師は開業医の方が多く、勤務医が少ない。それは医師会を通じて取材先を決めた結果だ。勤務医は大学病院関係者とも言えるが、大学病院・勤務医と地元の団体である医師会の対立がある。

? チーム医療と医師のプライドの問題。地域医療を考えた時、それは即ちチーム医療であるが、チーム医療がなかなか進まない面がある。端的にチームは医者と看護士と保険師と、さらにそれを支える人たちで作る訳だが、それがうまく行かないのは、第一に医者のプライドがあるから。医者は自分が偉いと思っており、看護士や保険師を見下す意識がある。そういう上下関係的な意識をはじめとして、様々な問題が今回の裏側で実はあった。

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5、本書に対する中井の全体的な評価 

? 本書は涙が出て来て読み進められない程 、圧倒的な迫力を持っている。それは震災に全身全霊で向き合った経験そのものの迫力と同時に、聞き書きの「一人語り」という表現形式の持つ力が最大限に発揮されていることから生まれている。

? しかし、どこまで行っても個人の視点でしかなく、全体像を見る事ができない。さらに、基本的に本書に登場する人は最前線の人たちだけ。前線は後方支援がないと成り立たないが、その人たちが見えてこない。

? 編集する人の中にそうした視点が無い。後方支援とは、例えば今回は大学病院、医師会が全面に支えようとした。さらにその後ろでは行政の支援がある。しかし、この本で行政は一貫して叩かれる存在として書かれている。もちろん、行政の問題はたくさんあるが一方的な叩き方は一面的すぎる。

? 本書では、ある局面に限定して描かれていて、個々の人たちは自分の事しか語れない一面性があるから、本来は最後のあとがきでは全体のバランスを取るような形をとるべき。

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12月 01

表現指導の実践報告・実践記録の発表の場をつくりましょう

2011年3月で、『月刊 国語教育』誌が休刊になりました。
全国の中学・高校の国語科の先生方にとっては、この雑誌が唯一の実践を発表する場でした。それを失ったことで、途方に暮れている方が大勢いることを知りました。

私たち高校作文教育研究会は、年3、4回の例会と夏の全国大会で「報告と討議」の場を提供してきました。
そして、それに加えて、これまで年数回発行してきた機関紙の別冊を刊行し、実践記録を発表する場として提供することに決めました。微力ながら、『月刊 国語教育』誌が果たしてきた役割の一部でも引き受けようというわけです。

この体制をつくるために、秋から、機関紙別冊の編集は程塚英雄さんにお願いすることになりました。
程塚さんは、すでに、長い期間にわたって、こうした編集をしてきました。その程塚さんの力を得て、充実した実践記録集を年数回出していくつもりです。

私たちの会員になっていただければ、入会金2千円、年会費5千円で、実践報告と実践記録を発表する場を得られ、全国の実践家や研究者と交流することでできます。
この機会に、どうぞ会員になって下さい。
また、積極的に機関紙への投稿をお願いします。

高校作文教育研究会 代表 中井浩一

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 さて、その「高校作文教育研究 別冊」をいよいよ発刊することになりました。

 「月刊国語教育」(東京法令出版)が休刊となって、発表の場がなくなり、がっかりなさっている先生も多いと思います。
そこで、微力ですが、私たち高校作文教育研究会がその仕事の一部を引き継ぎ、「高校作文教育研究 別冊」を発刊することにしました。当面は,作文教育の実践と研究を中心に発行していく予定です。外見は、薄っぺらで粗末な小冊子になりますが、内容はレベルの高い充実したものにしたいと考えています。皆様の積極的なご参加をお待ちしております。

l サイズ B5版20ページ表組み( B4.を1つ折りにして重ね合わせたもの)
2 原稿は、1行28字、250行(印刷の都合上、250行を超えず、なるべくこれに近づけてください。400字詰原稿用紙にして17・5枚になります。)
3 原稿はワープロ文書で作成し、メールに添付して送っていただくことを希望します。
4 原稿料はありませんが、掲載誌を10部差し上げます。
5 原稿宛先は以下の通りです。

連絡先
〒113-0034 東京都文京区湯島1-9-14  
プチモンド御茶ノ水301 鶏鳴学園
電話 03-3818-7405

E-mail:
  sogo-m@mx5.nisiq.net

11月 29

もうすぐ12月になりますね。

早いもので、今年もあと1カ月で終わろうとしています。

今年はゼミでは、江口さん、守谷君の修了がありました。それに入れ替わるように、新しい師弟契約者たちの進境が著しいものがあります。私のゼミも、1つ上のステージに高まろうとしている予感があります。

さて、この1年を終えるにあたって、またゼミの「成績発表」と「忘年会」を行います。

12月29日(木曜)午後3時より「成績発表」
午後6時半より「忘年会」を

今年を振り返ると、日本では3.11の震災、それに続く原発事故の影響が圧倒的なものだったと思います。

これによって、これまで隠されてきたこと、気づかずに放置してきたこと、私たちの国と統治機構、学問と倫理など、たくさんのことが明らかになってきました。そのひどさに呆然とする一方で、そうした気づきからしか何も始まらないとも思います。

私たちの国と社会は、もう1つ上のステージに高まらねばならないと思います。そうでなければ、亡くなった方々を含め、今回払った巨大なコストが無意味になってしまいます。

今回の影響は、今後30年から50年続きます。
ここで明らかになった課題をしっかりと受け止めて、今後を生きていきたいと思っています。

被災地の取材には、7月、9月、10月に続いて、12月にも行く予定です。
こうした取材は原稿にまとめて、来年から発表していく予定です。

11月 17

高校作文教育研究会の来年の2月、4月の例会日程と報告者を決めたいと思います。

日程ですが、以下の日曜日を予定しています。
2月5、19、26日
4月8、15、22日

報告することを希望される方は
可能な日程とともに連絡ください。

11月 16

大修館書店のPR誌『国語教室』秋号が刊行された。
今回は「聞き書き」特集だ。

私は立花隆氏へのインタビューをし、塩野米松氏と対談をした。
他にも、私の関わっている表現指導の研究会の関係者が執筆陣に並んだ。

高校の国語科の先生方には無料で配られるので
是非、読んでみていただきたい。

全国で、これをきっかけに
聞き書きが行われることを
期待している。

高校と無関係の方も
大修館に問い合わせれば
入手できるはずです。
一応定価は320円