4月 29
日本教育新聞の連載コラムの4回目が、4月27日に掲載されました。
「塾」について書きました。
前回同様、日本社会の同質性、その偏った平等感(いわゆる「悪平等」)と能力主義についての論考です。
塾 見えない存在
カナダから教育学の研究者が幣塾を訪れた。ブリティッシュ・コロンビア大学のジュリアン・ディルケス助教授で、彼は「私塾」を研究しており、日本全国の大手から町塾まで数10もの私塾を訪問調査している。最近は韓国、台湾などのアジア諸国までまわっている。ジュリアンによれば、塾の存在はアジア圏に限られ西欧では例外的だという。
確かに日本では塾の存在抜きに、教育については語れない。しかし日本では塾をテーマにした研究はほとんど存在しない。その事実にジュリアンは驚いていた。「研究上の宝の山が手つかずで放置されている。おかげで私が先駆者の栄誉を得た」と笑う。日本では塾は「見えない存在」であり、敵役としてのみ現れるのだ。
私の塾では大学のゼミのように、少人数による自由討論で授業が進む。「こうした授業は初めて見た。他はどこも、ほとんどが画一的授業形式で、学校と何が違うのかわからなかった」とジュリアンは言う。「塾では市場原理が働くはずなのに、多様性が生まれないのはなぜか」。
これらの指摘は、日本の教育、日本社会の急所を突いている。それは社会や価値観の同質性だ。多くの塾は第二の学校でしかなく、通塾とは2回学校に行くだけのことなのだ。そして、この同質性(平等性)を守るために大きな分断が生まれた。建て前と本音、平等主義と能力主義の分裂である。後者は塾や予備校が担当し、学校内では私学が引き受けている。
最近では、学校と塾の連携として、塾教師が学校に入ったり、予備校の受験情報やテクニックが学校に導入されている。話題になった東京杉並区立和田中学校(藤原和博氏が当時の校長)の「夜スペシャル」も同じだ。しかし、こうした試みは表面的な彌縫策でしかない。社会の同質性、それゆえの教育の分断。この本質的な問題を直視しない限り、何も始まらないだろう。
4月 24
5月、6月の読書会のテキストが決まりました。関心のある方の参加をお待ちします。
参加費は1回3000円です。
初めての方には、事前に「自己紹介文」を書いていただいています。問い合わせください。
事務局メールアドレス sogo-m@mx5.nisiq.net
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◇◆ 日程とテキスト ◆◇
5月30日 藤田省三「精神史的考察」(平凡社ライブラリー)
6月27日 中井久夫「精神科医がものを書くとき」(ちくま学芸文庫)
7月25日 未定
3月に藤田省三の「全体主義の時代状況」を読んで、あまり評価できませんでした。しかし、藤田の病気が大きな影響を与えていることは明らかなので、最も有名な「精神史的考察」を読んでみました。これは良い本です。中でも「松蔭の精神史的意味に関する一考察」には本当に感心しました。「全体主義の時代状況」に良い点があれば、「精神史的考察」のおかげだと思います。
歴史家としては彼の方法はかなり特殊ですが、この考察方法については、きちんと考えたいと思います。私たちは、自分の生きている時代をどう認識し、どうそれと関わって生きたらよいのか。これを考えてみましょう。
精神科の臨床医である中井久夫は名前を知っているだけでした。藤田省三が「全体主義の時代状況」で絶賛していたので読んでみたのですが、断然面白かった。文芸にも理解の深い、幅広い知識と、深い人間洞察のできる優れた臨床医だと思います。彼の仕事の中心は分裂病(統合失調症)の研究ですが、彼によって、分裂病の臨床は新たな段階に到っているようです。彼の仕事は私たちが、人間を深く考えるのに大いに役立つと思います。
分裂病についての有名な著作「最終講義 分裂病私見」(みすず)、「精神科治療の覚書」(日本評論社)がお薦め本ですが、やはり専門的です。そこで、一般人にわかりやすく説いていることと、入手しやすい点を考えて「精神科医がものを書くとき」をテキストにします。このタイトルからも、彼のセンスと姿勢が感じられますね。
7月には保守派の佐藤誠三郎「日本の失敗と成功」(扶桑社文庫)か、ルビンシュテインの「存在と意識」(青木書店)を読みたいと思っています。佐藤は保守思想家ですが、大きな人だと思います。東大教養部の教員でしたが、桝添要一、北岡伸一、御厨貴などが弟子です。
ルビンシュテインの「存在と意識」(青木書店)は、人間の意識と外的世界との関係を深く考察した古典です。圧倒的な思索力を持って、新たな地平を切り開いています。
決まりましたら、また連絡します。
4月 20
日本教育新聞の連載コラムの3回目が、4月20日に掲載されました。
「高大接続テスト(仮称)」について書きました。
日本的な平等観と能力主義の再検討を
高大接続のための新たなテストが検討されている。すでに昨年11月から関係者が集まって協議を始めた。参加メンバーは国立大学協会や私立大学の諸団体、全国高等学校長協会、大学入試センター関係者ら22人の委員。文部科学省も支援している。
このテストの目的は高校生、大学生の学力低下への歯止めである。すでに10年近く前から大学生の学力低下が叫ばれ、高校生の「学力の底が抜け」てしまったと言われてきた。
高校では何十年も前から全入であり、高校生の基礎学力の低下が進行していた。少子化で大学全入時代を迎え、大学入試の簡易化が学力低下を一層助長している。その責任をめぐり、高校側と大学側とは、互いを非難し合ってきた。高校内部、大学内部でも私学と公立・国立などの対立がある。文科省内の小等中等教育局と高等教育局との縦割りの問題も大きい。
今回の新テスト導入でも、高校側からは「推薦入試やAO入試の定員を拡大しておいて、高校卒業時の学力に問題があるとは笑止」「卒業認定は校長の権限だ、別に基準はいらん!」。地方では「われわれの高校はどこもきちんとやっているし、統一テストで高校生を脅さないと学習意欲が喚起できない関東都市圏の公立高校とは違う」などと強い反発がある。そもそも大学入試やセンター試験に問題があるのだから、その改善から始めるべきだ。
しかし、今回すべての利害関係者が同じテーブルについたことは大きい。相互の疑問を率直に話し合って欲しいと思う。ただし注文がある。これまでは常に現状に追われ、その追認とその表面的な対応に終始してきた。そして本質論や根本理念の議論はほとんど行われなかった。本質論とは、戦後の日本的な平等観(いわゆる「悪平等」)と能力主義の在り方の問題である(詳しくは拙著『大学入試の戦後史』を参照されたい)。今度こそ、そうした議論を率直に行って欲しいと思う。当事者だからこそそれができるし、有効だと思うからだ。
4月 16
日本教育新聞の連載コラムの2回目が、4月13日に掲載されました。
学校の「個性」とは何か、というタイトルで、大阪府教育委員会が中堅府立高校二一校と協働で行ったプロジェクトを取り上げました。
学校の「個性」とは何か
教育界では「個性化」「多様化」「特色化」が大流行だ。しかし、それが大きな混乱をもたらしている。本当の意味が理解されていないどころか、問題をごまかすために使用されたりする。例えば「高校生の多様化」「カリキュラムの多様化」とは、高校生の「低学力化」とそれへの対応のことだったりする。
「個性」の理解の浅薄さは、普通科高校、特にその中堅校で暴露される。進学校や教育困難校なら看板を出しやすいが、中堅校になるとお手上げだ。その中堅校の「特色作り」に取り組んで大きな成果をあげたのが、大阪府教育委員会が中堅府立高校二一校と協働で行ったプロジェクトだ。二〇〇五年から開始し、大阪教育大学(大脇康弘教授たち)も参画している。四年目の〇八年度には事例校を5校(刀根山、久米田、市岡、吹田東、布施高校)に絞り、校長とミドルリーダーの役割、学校革新の分析などを進めてきた。今年二月にはその報告と討議が行われ、私も参加した。
ここでは「特色作り」といっても、それぞれの学校の具体的な課題を明らかにし、その解決に取り組んできた。眼前の高校生たちの抱えた課題、それに全校で取り組むこと。学校の個性とはその結果生まれるものでしかない。それを行政、現場と研究者の三者が協力して実現しようとしている点がすばらしい。
私が一番感動したのは、学校教育の目的を「すべての高校生の『伸びしろ』を大きくすること」と、参加校の皆さんが口をそろえて発言していたことだ。一般に「改革」に成功した学校は「偏差値」があがり、「良い生徒」が集まる。しかし、その分は必ず、どこかの高校が下がることになる。私立ならばいざ知らず、公立校がそれでは意味がない。大阪ではこの矛盾の答えを出した。「入学した生徒が3年間でどれだけ伸びたか」で競い合う。
商人の街大阪の、現実的理想主義のすごみをまざまざと見た気がする。
4月 13
小学校、中学校、高校、大学の先生方、塾・予備校の先生方に、鶏鳴学園のノウハウを公開します。また、悩み相談にも応じます。
?授業見学
?研修(個々の課題に応じて、カリキュラムを作ります)
?悩み相談
小中での次期学習指導要領の改訂の柱は「思考力・判断力・表現力等の育成」「言語活動の充実」です。すべての教科で「観察・実験やレポートの作成、論述」の指導が求められるようになります。そして「これらの学習活動の基盤となるものは、数式などを含む広い意味での言語であり、その中心となるのは国語である」とされました(以上、中教審答申より)。
高校の学習指導要領の改訂でも、「思考力・判断力・表現力」は柱の一つです。
こうした中で、「思考力・判断力・表現力」をどう指導したらよいのかわからないで途方に暮れている先生方は多いと思います。国語科はもちろんのこと、英語や数学、理科や社会などすべての教科でその指導が問われます。学校全体で、「思考力・判断力・表現力」の教育をどのように編成したらよいか、悩まれている校長、教頭、教務主任の先生方も多いことでしょう。
また、大学の初年次教育や基礎教育でも「思考力・判断力・表現力」の基礎トレーニング、調査、取材のトレーニングを課す大学が増えてきています。そんな中で、新たな教育実践に挑戦しようという先生方を支援したいと思います。
鶏鳴学園では、4半世紀に渡り、まさにこの「思考力・判断力・表現力」の養成を主眼に置いた指導を行い、成果を上げてきました。全国的な学習会も組織して、英語や数学、理科や社会、保健体育などすべての教科の先生方とも学び合ってきました。中学から高校、大学までの教員と研究者がメンバーに揃っています。学校だけではなく、塾・予備校の先生方もメンバーです。そうした中で多くのノウハウが蓄積されています。是非みなさまにも、鶏鳴学園のノウハウを生かしていただきたいと思います。
鶏鳴学園のノウハウを知っていただくには、代表の中井浩一の著書『日本語論理トレーニング』(講談社現代新書)と『脱マニュアル小論文』(大修館書店)をお読みいただくのが早いと思います。しかし、そうしたノウハウを知るだけではダメで、先生方ご自身が練習や実際の指導の中でその運用能力を身につけていかなければ、生徒や学生の指導はなかなか難しいものです。
お悩みやお困りの際には、是非一度、鶏鳴学園まで問い合わせをしてください。
ただし、その際には簡単な自己紹介をお送りください。
それには年齢、連絡先、所属、指導上での悩みや問題意識、『日本語論理トレーニング』『脱マニュアル小論文』などをお読みの方はその感想などをご記入ください。
連絡は以下にお願いします。
e-mail:
sogo-m@mx5.nisiq.net